心全体のエネルギー低下

松山 淳 (Jun Matsuyama)
リーダーシップ・スタイリスト/MBTI認定ユーザー。「リーダーが変われば日本の未来が変わる」を理念に、ビジネスの現場で奮闘するリーダー層を対象とした個別カウンセリング(面談・電話・メール)、講演、研修、執筆活動など幅広く活躍中。

人の心には「無意識」という私たちが意識することのできない層が存在する。「無意識」は心の健康を保つために大きな役割を果たしているものの、混乱をもたらす諸刃の剣である。身体に異常はないが、理由もなく「やる気」が出なくなるという症状は、「無意識」を含めた心全体のエネルギーが低下している状態である。頭では「がんばろう」とは思うが、どうしても「やる気」が湧いてこない経験は、どんなビジネスマンにも一度くらいはあるであろう。

心の変革

こうした状態の時にカウンセラーと会話をしてみると、普段は考えてもみなかった深い想いに気づいたり、何十年間も思い出すことのなかった幼い頃の記憶が、突如として湧き出たりして、驚くことになる。これは「無意識」の層へと意識が降下していっていることを意味する。この時、クライアントと共にどこまで降りていけるかで、カウンセラーの力量が試される。それは辛い作業である。人の話しに黙って耳を傾けていることは、実は、カウンセラーの側が相当な心のエネルギーをつかっていることなのである。クライアントとともにカウンセラーも苦しむからこそ、クライアントは何かをつかんでいく。また、「心の変革」の過程では、意識のレベルを無意識へと一時的にでも変えることが必要とされる。それは非日常的であり、特異な体験がそこにはある。

「組織の無意識」からの影響

筆者は、主として経営者、役員、中間管理職などビジネス・リーダー層を対象にカウンセリングをおこなっている。詳細はもちろん述べられないが、人生の深いお話を聴くたびに「企業組織」にも「無意識」があることを強く感じる。経営学的には「社風」「企業風土」「組織風土」といったものであろう。

数社の企業を長期に渡って担当したカウンセラーの事例報告にこうしたものがある。A社では鬱病が多かったが、B社に行くと神経症が多く、C社ではみな元気でカウンセラーの出番はなかった。「組織風土」とは、それほど個別性が高い。「社風に染まる」という言葉があるが、その企業で吹いている独自の風に身をさらすことによって、社員は知らず知らずのうちに自分たちが特異な存在であり「組織の無意識」から大きな影響を受けていることを忘れていってしまう。「なぜ、変わらなければいけないのか」、その理由を深く理解してもらうだけでもかなりのエネルギーがいる。

組織変革の真の対象

だから「組織変革」と聞くと、人の無意識とつきあっているカウンセラーとしては、それがどれほどの難題であるかに思いが及び、身が震えてくる。新たな部署を設立したり、ある部を社長直轄にしたり、事業部制へ移行したりするなど、表面的な組織改革はいくらでもできるであろう。ただ、「組織変革」の主たる目的とは、社員の意識(心)が変わることで、「組織の無意識」が変化、活性化し、誰もがイキイキと働ける職場を現出させ、売上・利益に跳ね返ってくる仕組みをつくることにあると思う。つまり、「組織変革」とは「組織の無意識」と「個人の心」を対象にしている。そうした認識を強くもつことが、変革を導くリーダーには求められる。

組織変革におけるリーダーシップ

人事部、経営企画室、組織横断型のプロジェクト・チームなど「組織変革」の旗ふり役となる者たちは、個の心の集合体である「組織の無意識」という化け物を相手にして、変えることのできない「虚しさ」を経験することがある。その時、自分たちを変革の対象から外している意識がないかを常にチェックしたい。社員(他者)に変わって欲しいと願ってばかりで、実は、自分たちが変わろうとしていないのではないか。いつの間にかスタンド席から野次を飛ばしている観客になっていないか。外から人をコントロールしようとする「操作主義」では、他者の心は決して変えることはできない。変革は成功しない。

抵抗勢力からの批判の矢面に立ち、悩み、苦しみ、非日常的な特異な意識レベルをくぐり抜けていく覚悟が必要である。経営学の教科書には書かれていない、人の醜い部分を垣間みる人間と人間との感情的なぶつかり合いが「組織変革」にはつきものである。こうした泥臭いレベルの土俵に共に立つことが、実は「組織の無意識」を活性化させていることになっている。人の心を変化させていくカウンセリングがそうであるように、変革を導く者もまた、変わろうとする人と共に苦しむリーダーシップが大切である。「人を変えようと思ったら、まず自らが変わること」。この原理原則を常に胸に刻みたい。

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