現在の企業・組織が抱えるバラバラ病
河北 隆子 (Takako Kawakita)
イノベーションアソシエイツ株式会社 代表取締役 共同最高経営責任者
個人、チーム、組織のイノベーションを得意とする人材開発コンサルタント。フリーランスにて10年、様々な企業の人材・チーム開発、及び経営目標達成コンサルティングの経験を有する。
新ブランド立ち上げや組織変革のための企画、プログラム開発はもとより、プロデュースや数多くの実施、展開などを行う。
組織風土コンサルティングや経営トップへのエグゼクティブコーチングを始め、講演、執筆、研修、セミナーなども手がけ、一線で活動中。
現在、世界的な金融危機と景気後退によって、厳しい時代となっています。しかし、こうした時代だからこそ、組織に求められるのは革新を生み出す創造性とその実現力だと思います。しかし、多くの企業・組織は十分な力を発揮できていません。
理由はいくつかありますが、大きな要因の一つはコミュニケーションでしょう。背景には、人材の流動化、派遣や中途採用、業務の専門化・細分化、そして社内旅行や、飲みニケーションなど公式、非公式なコミュニケーションの機会の減少など社会的な変化があります。その結果、社員は狭い世界で自己完結し、組織力につながらないのです。
多くの企業はここ数年、組織力向上に向けて積極的に取り組んできました。企業ビジョンやブランド構築、人事制度改革や社内SNS、人材育成や研修などです。しかしそのことは必ずしも成果には結びついていないのではないでしょうか。なぜならば、企業ビジョンと日常活動、制度とモチベーション、管理ツールと業績、上司と部下、部門チームと個人、社員どうしがつながっていないからであり、その結果、各個人がいくら向上しても、組織力の向上につながっていかないということです。したがって、組織力向上のためには、個人や制度、システム、企業ビジョンやブランドなどをそれぞれ向上させると同時に、これらをつなげ、連携・連動させていくということが必要です。
社員力×組織力をつなぐマネジメント
組織力向上に向けた変革には、2つのアプローチがあります。
第一に、仕事の意味とベクトルを共有し、日常につないでいくこと(=組織コアマネジメント:縦のつながり)、第二に日常の中で組織や業務を超えた活きたつながりをつくること(=有機ネットワークマネジメント:横のつながり)です。
組織コアマネジメントとは、組織コアとなる価値観や目的を明確にし、そのベクトルを共有することを通じて、会社と個人の関係を強固にし、実践力へと転化していくものです。一般的に、多くの社員は自分の日常の仕事と本来的な組織目標のつながりを意識していません。時には、その意味すら知らなかったりします。このマネジメントのプロセスを経ることで、各個人は自分やチーム、会社、仕事に対する理解が深まり、組織への不満は、自ら取り組みたい課題へと変わっていきます。このマネジメントサイクルをまわしていくことで、企業ベクトルと社員の目標が連動し、業績向上へのモチベーションを短時間で引き出すことができます。
脇 經郎 (Tateo Waki)
イノベーションアソシエイツ株式会社 代表取締役 共同最高経営責任者(Co CEO)
組織改革の他、IT、ISO、環境分野においてもコンサルタントとして活動中。特にアクションラーニングについては、日本最初のシニアアクションラーニングコーチ11名の中の一人として活躍。また、環境省認定環境カウンセラーとして、環境保全活動の支援も行っている。
有機ネットワークマネジメントとは、日常の中で組織や業務を超えた人と人とのつながりを作り、お互いの個人と仕事を知ることで、業務の連携、連動を促進させ、価値創造へとつなげることです。しかし、今日のバラバラ組織では、社員の顔や名前、仕事内容など知らなくて当たり前。決められた業務フロー以外のコミュニケーションなど生まれず、とても「有機的」とは言えません。
組織横断的な研修で組織と社員のつながりを築く
標準的な「4か月マネジメント実践力強化プログラム」では、2日間の集合研修の後、現場のマネジメント実践を行なっていきます。私たちは研修を受けているチームに対してファシリテーターとして課題を投げかけたり、サポートを行なったりしていきます。
特色はいくつかありますが、その一つとして、他部門のメンバーや上司をチームに巻き込んでいくことです。他部門とのコミュニケーションを通じて、現状や考え方を共有することで、視野が部門を越えて会社全体に、さらには社会との関わりにまで広がっていきます。また、一日の行動を計画し、振り返る作業も行ないます。その内容を日報としてまとめるのは楽ではありません。ですが、書かれたものはメンバーで共有されるので、互いの状況や考えを知ることができます。研修を通じてコミュニケーションが増えますし、上司と部下がともに研修を受けて変化していくことで、上司と部下の間のコミュニケーションも変わっていきます。
■有機的なメンバーのネットワークと
日常を通じて成長するサイクル
研修後も引き続き、現場での課題解決やコミュニケーションを深めていくために、研修プログラムをカスタマイズして現場で継続、実践する企業様も少なくありません。また、研修を受けたメンバーどうしの絆は深まっているので、定期的に集まって一緒に食事会などを行なっているということもよくお聞きします。実は、こうした食事会などの費用についても、一部を企業が負担するように助言させていただいています。組織コミュニケーションを深めるしくみとして定着させるためです。
一般企業の他にも、公立の中学校や小学校、最近注目されている「小中一貫教育」の先行導入の支援などどの事例があり、成果を上げています。公立の学校へのご支援は、私たち企業と学校と地域など社会がつながっていることを再認識させていただく機会でもありました。
不況時代を生き抜くリーダーの役割
個人力と組織力の向上に向けて、リーダーは何をすればいいのでしょうか。
リーダーは、自分の業務分担、また自部門のチームの業務しか見えないという視野を変えていかねばなりません。ミッションや組織目標と人をつなぎ、情報や人をつなぎ、現場が活性化する場づくりとは働きやすい職場環境のために支援してゆくことが求められます。また、部門間や社外とのネットワークも含め、それぞれを「つなぐ役割」を担い、社員に思考と行動を変革させてゆくことが必要でしょう。
その為のポイントは2つあります。第一に、思考や行動を創りだすためには、現場に「わくわく」を創り出すことです。それは、それは単に楽しいということではなく、『日常的に気づきや学びを創りだす』よう社員に、そして自分自身に、積極的に働きかけることです。また、心に響く温かい、たった一言の褒め言葉やその時の表情。複雑で緊急な問題をテーブルに乗せて、チームで多様な切り口から議論をかさね、本気でチャレンジする場なども、その一つです。このように日常の小さな学びは毎日のわくわくと、より生産的な行動を創りだします。リーダーが意図的に、社員がわくわくするような高い創造性を生み出す環境を整備することにより、成果と成長性を持った仕事場になっていくでしょう。
第二に、それを一過性ではなく、常にルーティンにしてゆける仕組みを作ること。リーダーが自分ばかりが頑張るのではなく、メンバー同士で同じことができるようになることが望ましいですね。そのためには、簡単なハウスルールを作ったり、既存の仕組みをアレンジしたりすることでも良かったりします。
今こそ、会社のミッションを考えるべき
最初にお話ししましたように、現在は世界的な経済危機の真っ只中にあります。ですが、こうしたときこそ、会社のミッションについて考えるべきです。そのミッションを単なるお飾りにせず、業績と社会貢献につなげるため、従来とは異なる「つなぐアプローチ」により、トータルコストを削減しつつ、実現することを支援します。
私たちは、会社のミッションのベースは社会への貢献であると考えています。事業活動を通じて社会に影響を与える存在ですね。個人、仕事、会社、社会は既につながっているのです。21世紀は「豊かな社会と人生の具現化」の時代であり、今はまさに、100年に一度のターニングポイントだと感じております。原点に立ち返ったベクトル共有と日常生活の変革が、私たちが提案する組織風土によるイノベーションだと考えています。(終わり)