1962年から24年間、自動車機器メーカーに勤務し、教育担当、人事、総務、工場長、社長室(トヨタ生産方式、業務改善推進担当)の職務を歴任。86年、システム科学を設立、社長に就任。一貫してトヨタ生産方式・IEを基にした業務革新の実践及び支援ツール「HIT」法の開発・導入、コンサルティングを推進、2010年2月に「業務プロセスの可視化法とチャート作成システム」で特許を取得。この間、ダイヤモンド社国際経営研究所で「業務革新の実践者養成講座」を担当、P.F.ドラッカー教授認定講座講師も務める。
現在、日本企業の大きな問題の1つは、組織をどのように活性化し、生産性を上げるかということだ。しかし、経営者が方針を打ち出しても、組織全体が「やらされ感」を持っていては展開できないし、生産性も上がらない。
システム科学代表取締役の石橋氏が提案するHIT(Human resource and Intelligence Technology)法は、組織のメンバー全員が参加できる業務改善手法だ。業務をチャート化することで可視化され、その結果、各部署やメンバーの業務が明確になり、無駄な仕事がなくなる。生産性が向上することで、組織が活性化されていく。
一方、可視経営協会では、新たに組織開発コンサルティングの斎藤氏を新理事長に迎え、日本の職場を元気にする活動を拡大する。組織を働きやすくかつ働きがいのあるものにしていくためのイノベーションを起こしていきたいという。
さらに八千代工業では、自社の経験を生かし、HIT法を活用したシステム再構築法を開発。システム科学のコンサルティングは新たなステージに向かう。
石橋 ホワイトカラーに元気がありません。社長がもっと商品を売りたいといった方針を出しても、管理職以下のメンバーがこれを具体的に展開できず、やらされ感ばかりが残って、新しい挑戦が始まりません。
組織を活性化し、クリエイティブ化にしていくことが必要だと思いますが、その点、組織開発の専門家でもある斎藤さんはどのように考えていますか。
斎藤 いい組織というのは、まず理念がしっかりしています。どういった理念かというと、
・組織のミッション
・価値観(Value)
・将来どういった組織になりたいか
・そのためにどういった戦略をとるか
そしてこれらを実現していくのが、経営理念です。これがなければ、社員はいくらがんばっても無駄です。
でもそれだけではありません。いい組織では、戦略を遂行する現場力が高いといえます。こうした組織では、業務が可視化されており、各部署やメンバーの役割=責任と、分担=権限がはっきりしています。
石橋 私どもが開発したHIT法という革新マネジメント技術は、チャートを活用して業務を可視化する方法ですが、組織のメンバー全員で取り組むことで、活動の共有感が高まり、組織を活性化します。同時に、斎藤さんがおっしゃるように、各部署やメンバーの役割や分担が明確になり、責任や権限も自覚できてスキル向上して生産性向上に寄与します。
斎藤 HIT法では、具体的に、どのようにして業務を可視化していくのでしょうか。
石橋 業務を洗い出し、チャート化します(図1)。さらに、業務の実態把握などを行い、業務の改善点を探し出します。例えば、いろいろな業務がIT化されているにもかかわらず、システムとシステムの間は紙の帳票でやりとりされていることがあります。エンドユーザーコンピューティングが活用されていません。また、「売り上げを伸ばす」といった大きなテーマの場合、複雑でチャート化してもメンバーが把握できず、そのままでは改善点が見つけにくいので、これを分解して各部署のチャートにします。こうすることで、改善点が見つかります。
斎藤 平均的に、どのくらい業務に無駄があるのでしょう。
石橋 これまでのデータからは、16%は不要な仕事です。業務改善によって、退職手当支給にかかる時間が、約763時間から約36時間まで短くなったケースもあります。
さらに単能職を多能職に育成していくことで、さらに効率化することができます。業務の実態を把握すると、技術関係の仕事の60~70%、事務・管理部門では90%の仕事が、誰でもできるルーチンワークであることがわかります。一方、業務は部門ごとに波があります。そこで、業務に余裕がある時期にある部署からは、忙しい部門を支援するようにします。これだけでも、効率化していくのですが、さらにどうしてもその部署がしなくてはならない、事務・管理部門の10%、専門技術の核心となる30~40%にこれまで以上にクリエイティブに取り組んでもらうことも可能です。
斎藤 多能職になるためには、メンバーの能力開発も必要ですね。逆に、業務改革のプロセスを通じて、新しい仕事に取り組むことなどで、人が成長するということもあると思いますし、組織も柔軟性を持ちます。また、互いの業務プロセスがチャート化されて把握できることで、チーム力も高まるのではないでしょうか。
斎藤 ところで、業務革新の分野ではコンピュータの影響は極めて大きいものがあります。また、常にベストプラクティスも変わってきました。例えば、設計の分野ではCAD(コンピュータ支援設計)の普及で業務が大幅に革新しました。
HIT法で大きな成果を上げた企業には、どのような事例がありますか。
石橋 本田技研工業グループの企業である八千代工業様は、そうした事例です。
規模が大きく、国内外に数多くの拠点があるため、情報システムを活性化するために検討している状態でした。丁度その頃、HIT活動が始まり、業務の整理。業務の機能とデータ項目などが見えてきて、その情報を活用した結果、短期間で効率の良い情報システムが構築できた例があります。
しかしHIT法によって、部署間の情報が共有されるようになり、業務の無駄が減っていきました。現在は、自社の経験に基づいた、HIT法導入のためのアプリケーションを開発し、他社に提供するところまできました。
斎藤 ところで、業務革新というと、社内での抵抗があるかと思うのですが、実際には働きやすい職場づくりになると思います。
ルーチンワークが減り、クリエイティブな仕事に時間をさけるようになるので、新しいことにチャレンジできるようになるので、働きがいも出てきます。
最近「ブラック企業」がよく話題になりますが、これは働きやすくないだけではなく、働きがいもない企業だと思うのです。働きがいがあれば、不満はあっても簡単に退職はしません。
石橋 HIT法で業務革新を進めていくと、社員の方が積極的になります。ある企業では、6カ月間に一人あたり60件の提案があり、経営者は驚きました。
また、結果が出てくると自分たちの仕事が楽になるので、さらに次の改革に進もうとします。
最初はやらされ感ではじめた業務革新も、いずれは自分たちでチャートをつくり、改善点を探すようになります。
石橋 協会としては、今後どのようなことを目標に活動されるのでしょうか。
斎藤 業務革新を組織の中で進めることができるリーダーを育成したいと思います。
また、経営者にも業務革新のバックアップをお願いしたい。
イノベーションを起こすには、次の5つの役割を持つ人が必要です。それは、1.アイデアを出す人、2.選択してくれる人、3.形にできる人、4.外部の妨害から守る人、5.メンター(困ったときに助けてくれる人)、です。このうち経営者にはぜひ、2,4,5の役割をしていただきたい。そのために、エグゼクティブな方々の情報交換の場もつくっていきます。
石橋 イノベーションという視点では、私どもはBPR(Business Process Renovation)を進めていきたいと思います。
新しい事業としては、先ほどご紹介した八千代工業様とともに、業務革新を実現する、低コストの戦略情報システムを提供します。
当社が前工程となる業務の整理などを行い、後工程のシステムは八千代工業様が担当します。
例えば、バブル期には中堅以下の企業にも業務システムが導入されましたが、それがメンテナンスされずに放置されている例が見られます。再構築には導入時のようなコスト負担は難しいでしょう。そこでご紹介した八千代工業様のような業務の整理で実益を上げながら安いコストで短期間に再構築ができる例が参考になります。
(終わり)