共創スクエア

税理士法人マイツ

事業承継の最重要課題

税金対策にとどまらない、創業者と二代目の想いを大切にした総合コンサル

日本事業本部 本部長 税理士 酒井 輝

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税理士法人マイツでは、近年、事業承継の相談も主要な案件となってきている。特にクライアントが気にしているのは、事業承継を行う際の株式譲渡などにかかる税金対策のようだ。

しかし酒井氏は、1つの案件が終了するたびに、事業承継の真の課題やポイントは別にあると感じることが多いと言う。

その課題やポイントとは何なのか、実際の事業承継の中で、創業者は何について悩み、どのような解決を求めているのか、そして、どのような結論に着地していったのか。

税金対策のみにとどまらない、マイツが提供する総合コンサルティングの一部始終を、税理士法人マイツ日本事業部本部長、税理士の酒井輝氏に伺った。

【ビズテリア経営企画 編集部】

最重要課題は税金対策ではない

酒井 輝 (Hikaru Sakai)
税理士法人マイツ
日本事業本部 本部長 / 税理士
1999年より独立系税理士法人にて中小・中堅企業に対して税務業務(税務顧問・セカンドオピニオン・申告業務等)に従事。2006年4月以降は独立系会計ファーム(所属税理士法人)にて、上場会社、上場準備会社をメインクライアントとして税務業務のほか、組織再編支援や経理アウトソーシング業務など会計・税務領域を広範囲にわたり従事。
得意分野は、ベンチャー企業、成長企業並びに上場企業に対する法人税務。2014年12月よりマイツグループに参画。日本事業本部統括、税理士法人マイツ社員税理士として、相続・事業承継を含む国内税務に従事する傍ら、中国・アジアに進出する日系企業に対する会計税務のワンストップサービスを日々行う。

事業承継にあたり、我々が受ける相談のほとんどは、税に特化したものです。

例えば、経営を子に継がせるときには株式も同じタイミングで譲渡するのが一般的ですが、これは「資産」を譲渡するということになりますので、税金が生じます。また、税金を払うくらいなら、株式は自分で持っていようと考える経営者もいますが、世代交代をした会社が成長すれば、株式の価値が上がり、株式を譲渡しなければならないタイミングになったときには、当初の負担額より上がってしまっているという事例もあります。この一例をとっても、事業承継の際の税金対策はやはり重要な課題であることに代わりはないということがお分かり頂けるかと思います。

しかし、私がクライアントから話を聞き、いつも感じているのは、創業者が抱えている最大の悩みや課題は、税金対策以外に、もっと別の所にあるのではないかということです。

過去にあった事例としては、親から子に事業承継をしたいということで相談を受け、現状事業が好調で成長が予想されるため、税金の問題を考慮し、早めに株式を子に譲渡したいとのことでした。ところが、まだ子が経営者として一人立ちするには時間がかかるとのことでしたので、種類株を発行し、議決権は創業者が持つようにするといったことで、まず税の問題は解決しました。しかし、子がどのタイミングで事業を引き継ぐのか、その課題は残ったままとなっていました。

二つ目の事例としては、創業者に子が二人いて、株式を50%ずつ譲渡したいという相談を受けた時のことです。確かに、50%ずつの譲渡で、目の前にある税の問題は簡単に解決できます。しかし、さらに次の世代のことを考えると、株が分散してしまい、経営者が納得いく経営ができなくなる可能性が課題として残ってしまうのです。

このように、税金対策ができたとしても、何らかの課題が残ってしまっては意味がありません。私は、いかにスムーズに事業を二代目に引き継ぐことができ、創業者の想いや哲学を承継できるかが最重要課題だと考えています。税金対策はその一部でしかないのです。事業を引き継ぐという課題を乗り越える中で、税の問題が明らかになり、解決策が見えてくるのではないかと私は思います。

経営哲学の継承

事業承継のタイミングに正解はありません。どんなタイミングで行ったとしても、悩みや課題は必ずと言っていいほど出てきます。それをスムーズに解決していくために、何よりも優先したいのが経営哲学の継承なのです。

例えば、二代目が経営を引き継ぐにあたって、他の役員が二代目に離反するようなケースも多々あります。こうした場合は、創業者と二代目だけではなく、役員の考えもヒアリングし、どうすれば二代目を支えてもらえるかを一緒に考えます。二代目のリーダーシップに問題がある場合には、二代目が創業者以上のリーダーシップを発揮できるように成長を支えていくことをお願いするなど、私たちも経営を支えていきます。また、別の解決策としては、組織を変更して二代目経営者の不得意部分を他の役員で補うということもできます。

いずれにせよ、二代目、並びに役員に創業者の経営哲学や想いがしっかりと継承されていれば、そこを軸に話もスムーズに進み、自然と理想的な事業承継の形が見えてくるのです。

一方、せっかく二代目が事業承継しても、創業者を超える経営をしないと、企業の成長はあり得ません。しかし、超える経営をしようという想いが、創業者と二代目との争いにもなりかねません。最近では、ある家具会社で、創業者で会長である親と、社長である子との間で、経営をめぐる争いがありました。中小企業でも、こうした創業者と二代目との間で経営をめぐる争いはめずらしくないのです。創業者と二代目の争いには、私たちが仲裁に入り、一緒に解決策を探すことになります。この場合にも、ずれてしまっている経営哲学をいかに一致させていけるかが論点となってくるでしょう。

事業承継の進め方

このように、さまざまな問題が起こる中でも、軸となる経営哲学がしっかりと継承されていれば、創業者と二代目が納得のいく形で事業承継ができ、役員の離反も弱まります。

ただ、ほとんどの企業では、創業者が二代目に自分の経営哲学を話すことが少なく、二代目も、自分が経営者になった場合、自分の考えで事業を進めたいと考えるようになります。事業承継においての私たちの仕事は、税金対策はもちろんですが、こういった経営哲学の継承をしっかりと行っていただくお手伝いや仲裁役をすることも、重要となってきます。

創業者と二代目の想いをとらえる

「創業者と次の経営者の想いを丁寧にすり合わせ1つの結論に導く。それは、コンサルティングというよりカウンセリングに近いものです。」

実際に事業承継のコンサルティングを行うにあたっては、まず、創業者と二代目のそれぞれの想いをヒアリングすることからはじまります。会社に対するビジョンなど、親子だから同じということはありません。

むしろ、先ほども述べたように、それぞれの経営や事業に対する想いが双方に強くあるのです。

そして難しいのは、そのどちらか一方が正しい訳ではないということです。どちらも正しいという視点に立つところから、私たちのコンサルティングがスタートします。

それぞれの考え方で何が優先されるのか、そうした論点を洗い出し、妥協点を見つけていくことは、簡単ではありません。双方にとって納得のいく結論に達するには時間がかかります。したがって、コンサルティングというよりも、カウンセリングという方が近いのではないかと思っています。

創業者と二代目の想いを合わせる
マイツのコンサルテーションを通じて、双方が納得のいく経営理念へのすり合わせを図ります。

過去の事例としては、事業承継にあたり、三人いる子の内の誰か一人にしぼりきれないというケースがありました。

一般的には、長男など経営者を一人にしぼり、残りの子は役員に就任させることが多いのですが、このケースでは、長男が経営を承継することに三男が納得していませんでした。

そこで話し合った末に、会社を3分割することを決めました。幸い、三人の子はそれぞれ得意分野が異なっており、取り扱う商品が違っていたので、現在でも3つの会社がそれぞれ順調に成長しています。

とはいえ、こうした結論が出るまで1年近くかかりましたし、実は税金の節約にはなりませんでした。それでも創業者と三人の子がそれぞれ納得し、喜んでいただいたので、結果的には良かったと思っています。

国外の事業承継が次のテーマ

事業承継の課題はさまざまです。中には、次の経営者が見つからない、子が経営に向いていないといったケースもあります。その場合は、他社とM&Aを行うという選択肢もあり、私たちは日々、こうしたあらゆる相談、さまざまな問題に対応できるよう体制を整えています。

今後手掛けたいのは、国外での事業承継です。グローバル社会では、国外で創業した事業を次の経営者にどのようにつなげていくかが、課題となってきています。こうした場合、中国など現地の会社に事業を売却するということもありますが、創業者の多くは国外事業も子に継がせたいと考えるのが一般的です。

幸い、マイツグループでは日系企業の中国・アジア進出のサポートの経験、事業売却のサポート経験がありますので、こうした実績をふまえ、国外での事業承継のコンサルティングも国内同様に可能だと考えています。

(終わり)
コラム: 今なお活力ある中国

マイツグループは、中国における日系企業の支援に関して、多くの実績があります。こうした視点から、あらためて中国について述べておきたいと思います。

中国進出には、政治的な難しさがあるというのはご存知のとおりかと思います。しかし、中国に代わる市場は、現状ないということもまた、事実です。そして中国は現在、高齢化という課題を抱えており、経済成長の過程で起こる問題は、今まで日本が経験してきたものと類似しています。こうした現状を踏まえながら、中国と関係を持っていくことが重要だと私たちは考えています。

近年、上海などの大都市の雰囲気は日本の新宿などと変わらなくなっています。そして、日本国内では、地方の企業が首都圏に進出することなく、中国に直接進出するケースが増えているのです。それどころか中国の大都市は、経済成長が鈍化したとはいえ、日本の都市以上に活力が得られる場所となってきています。経営者は相当な覚悟で進出されていますので、日本国内以上におもしろい仕事ができているのではないでしょうか。

マイツでは中国進出企業に対する総合支援サービスを行っております。
●中国進出に関する相談指導
●中国現法における会計・税務・労務サービス
●中国連結子会社に対する支援サービス
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