共創ワークショップ
共創ワークショップ

近年、円安や大幅な金融緩和、震災復興需要などによって、株価が上昇し、数字の上では景気は回復しているように見える。しかし、実態は内需が拡大せず、デフレから脱却はしていない。中小企業においては、90年代から続く失われた10年、20年は、さらに失われた30年になろうとしている、というのが正直なところではないだろうか。

もっとも、企業の経営層としては、すべてを景気のせいにするわけにはいかないだろう。自ら元気になっていくことが必要だ。

横浜国立大学名誉教授の吉川氏は、日本の経営者はまず、経営のマインドをつくるべきだと話す。目標をセッティングし、目標に到達するための戦略を構築し、それをマネジメントし、利益を上げていくということだ。

一方、MAP経営代表取締役社長の浅野氏は、社長がビジョンを持ち、社員がそれを実行していく力を身に付けていくことが必要だという。

では、具体的に、何をすればいいのか。吉川氏と浅野氏に語り合って頂いた。

【ビズテリア経営企画 編集部】

ビジョンが描けなくなった日本企業

吉川 武男 (Takeo Yoshikawa)
横浜国立大学名誉教授
エジンバラ大学客員研究員
バランス・スコアカード研究会会長

専門分野
・原価計算および管理会計
研究課題
・ABCシステムおよび業績評価会計システムの理論
 および実践的研究

略歴
1966年3月 青山学院大学経済学部卒業
1968年3月 青山学院大学大学院経済学研究科修士課程卒業
1972年12月 米国ウィスコンシン大学大学院経営学部卒業(MS取得)
1974年3月 青山学院大学大学院経済学研究科博士課程卒業
1986年4月 横浜国立大学経営学部教授
1990年6月 エジンバラ大学客員教授(1990年-2010年)
1997年4月 同経営学部長
2008年4月 横浜国立大学名誉教授
法政大学大学院教授(2008年-2013年)

浅野 吉川先生は長年にわたって、日本企業を見てきたかと思います。その上で、最初におうかがいしたいのは、今の日本企業の状況がどのように見えているかです。いかがでしょうか。

吉川 かつてのアメリカと日本の関係が、日本とアジア諸国との関係になっています。

かつて、アメリカの製造業は、作る側の論理で製造しており、売る側の論理ではありませんでした。これに対して日本の製造業は売る側の論理で、細かいニーズに合った製品を、安価に製造してきました。このことによって、メイド・イン・ジャパンの評価が高まりました。

こうした日本人の気質は今でも評価されています。東南アジアではコンビニエンスストアが増えているのですが、それはスーパーマーケットと異なり、店員とコミュニケーションしやすいことが評判につながっています。

しかし現在は、製造業はアジア諸国に価格で勝負できなくなっています。とりわけ下請けとなる製造業は厳しい状況に置かれています。

とはいえ、円安になっても価格競争は厳しい。そうであれば、スピード感を持った研究開発などを通じて、激しく変化する市場に適応していくことが必要です。

浅野 確かに市場への適応は課題だと思います。

しかし現在の日本企業は、市場の先が見えないということを、ビジョンが描けないことの言い訳にしていると思います。

吉川 それこそまさに、日本企業には「経営」がないということです。

「経営」という独立した仕事を考える

浅野 泰生 (Yasuo Asano)
株式会社MAP経営 代表取締役社長
1972年生まれ。愛知県一宮市出身。経営計画の立案を通じ社長の課題設定力を醸成し、行動計画の徹底と人材活用の両面からビジョン構築とその達成を支援するビジョンナビゲーター。
大学卒業後、飲料メーカーに営業職として入社。その後、大手税理士法人で会計実務に従事。
会計力を活かした新しい経営サポートを追求するため経営計画専門会社であるMAP経営に2006年に入社し、2014年1月より現職。
著書に『最強「出世」マニュアル』(マイナビ)がある。

浅野 経営がないということは、私も感じます。

日本企業の99.7%は中小企業です。そのほとんどは、別の企業でトップセールスやトップ技術を担ってきた人たちが独立して設立したものです。したがって、経営者として学ぶ機会は少なかったのではないでしょうか。

吉川 そもそも、日本の国立大学で経営学部のある大学は少ないです。したがって、国立大学を卒業した多くの経営者は、組織を運営していくためのビジョンや戦略の立て方、マネジメントなどもあまり理解しておりません。

優秀な工学部はたくさんあり、すぐれた技術を持っているのですが、そうした学生が社会に出たときに、言われた通りのことしかしません。それでは、独立しても経営はできません。

浅野 それでも会社が小さいときは大丈夫なのだと思います。しかし会社が成長してきたら、社長は「経営」という仕事をしなくてはなりません。

尊敬する経営コンサルタントの小宮一慶さんは、社長がすべき「経営」という3つの仕事があると話しています。それは「企業の方向付け」「資源の最適配分」「人を動かす」ということです。社長は、経営者として「経営」という3つの仕事を意識して実践していかなければなりません。

吉川 会社も人生と同じで、目標をセッティングして、そこに近付いていくことが大切です。

バランス・スコアカードと会社の強み

浅野 経営にあたって、バランス・スコアカードはどのように活用していけばいいのでしょうか。

吉川 バランス・スコアカードは、元々は日本的経営をアメリカに導入するため、ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・キャプラン教授が開発したものです。「財務」の視点だけではなく、「顧客」「業務プロセス」「人財と変革」の4つの視点から、ビジョンを戦略を通して実現する為に、マネジメントしていくというものです。

かつて、日本企業はお客様が第一でしたし、社員を育てていくことが強みにもなっていました。特に人材ではなく人財という言葉を使うのも、こうした背景があるからです。

あらためて、経営者は4つの視点でビジョンを持ち、戦略を立案し、実行・検証を繰り返していく、バランス・スコアカードを活用するといいでしょう。

浅野さんの会社では、お客様に5ヵ年計画を立てていただいているそうですね。

浅野 3か月先もわからないのに5年後はもっとわからない、と話す経営者はたくさんいます。しかし、経営計画を立てることで、会社の理念やビジョンが必要になってきますし、会社の現状分析も必要となります。その上で、どういう会社になりたいのか、その願望を明確にしてもらい、そこに向かっていく計画を立ててもらいます。

吉川 SWOT分析なども必要になりますね。

浅野 その通りです。

そこで明らかになってくることは、外部環境は一企業や一個人が抵抗したところで何も変えられないということです。そこで、我々自身が変化に適応していかなくてはなりません。例えば、日本経済新聞の1面が社会の関心ごとであり、そこに自分の関心を合わせていくことも必要なのです。

SWOT分析では、外部環境から見た機会と脅威、自社の強みや弱みがわかります。そして、外部環境に適応し自社の強みを活かすことから、今後の事業領域を検討することができます。また、弱みを課題と捉え、それを解決することで経営体質が強化されます。

吉川 しかし、中小企業には、強みがわかっていない会社も多いのではないでしょうか。

浅野 そうしたお客様には、普段何気なくやっていることの中に御社の強みが隠れています、と申し上げています。私たちは、お客様の強みを自分自身で発見する、そのお手伝いをしているわけです。同時に、弱みもありますから、5ヵ年計画を立案する中で課題設定し解決する手順を明確にしていきます。そして直近で何をすればいいかを5年後からの逆算の視点で意思決定し、実際のアクションをチェックできる仕組みを構築していきます。

吉川 そこはまさに、バランス・スコアカードが得意とするところですね。

私は、バランス・スコアカードはカーナビのようなものだと思っています。5年計画であれば、その最終年にある目的地に向かってガイドしてくれるものでしょう。

浅野 中小企業の経営者には「ロケット理論」のお話をさせていただいています。月に行くような壮大な目標であっても、そもそも思わなければ月には行けません。行くと決めたことで、試行錯誤を繰り返しながら、近付いていけばいいのです。人類はそうやって月に行ったのですから。

「人財」育成とバランス・スコアカード

吉川 浅野さんは、「出世」をテーマにしたビジネス書を出しているとのことです。そこで、バランス・スコアカードの視点の1つである人財についてなのですが。経営として見た場合、人財育成やモチベーションの向上には、どのような取組みが必要でしょうか。

浅野 組織風土が重要だと考えています。目標に達しなくても、互いに許し、あきらめてしまうような風土では、組織は成長しません。互いに切磋琢磨し、仕事をやりきるという習慣が必要です。そのため、経営計画で風土を変えていくということも大事だと思っています。

私自身、今の会社を先代から引き継ぐときに、風土づくりを最優先しました。クレドカードには10個の行動基準を書いています。その1つである「他求自律」とは、相手に正しい要求をすることで、自らを律することです。そして、こうした行動基準に合わせることは、誰よりもまず自分自身が率先垂範しました。

吉川 風土づくりは、大切なことだと思います。

私は、人財づくりにお金をかけることも必要だと思っています。長期的に見ると、人財にお金をかけない会社は、人財が会社に残りません。ところが、今の会社のほとんどは、短期的な成果ばかりを求め、人財にお金をかけない。その結果、競争力のない会社になっていると思います。

浅野 人財に関連して言えば、「リーダーシップ」を育てることも必要です。

マネジメントができてもリーダーシップがない組織は機能しません。そこで、私の会社ではマネージャーという呼称をなくし、すべてリーダーに置き換えました。

グループリーダー、ディビジョンリーダー、役員、社長のそれぞれに応じた長期的視点を持ち、それぞれの責任範囲の中で意思決定をしています。

意思決定を積み重ねていくことで、人は成長します。多少間違った意思決定でも、お客様のためであれば、許します。むしろ自分の信念がどこにあるのかを明確にすることの方が重要です。

意思決定はリスクを背負うことです。しかし、何もしなければ何も起こりません。

吉川 それはすばらしいですね。そういった基盤があれば、経営者と現場とのコミュニケーションもうまくいくでしょう。

浅野 ところで、中小企業の経営者に、青くさい夢を語る人が少なくなった気がしませんか。

吉川 私もそのように感じます。夢がなければそこに向かって進むことはできません。そのためにも、バランス・スコアカードを活用して夢を追っていける経営者がもっと必要だと思います。

(終わり)
■この記事についてのお問い合わせ
株式会社MAP経営
共創ワークショップ
スペシャル・インタビュー
  • 女性活躍の正しい実践とは
  • 人を幸せにする経営
  • 日本の農業を世界に
  • 経営のマインドを取り戻し、将来のビジョンを描く
  • マイナンバー制度 導入に向けた不安に応える
  • 多様性ある社員をやる気にさせる人事制度を
  • 成長戦略にのっとったM&Aとは
  • 事業承継のポイントは、経営理念の確立と浸透
  • バランス・スコアカードで元気な日本的経営を取り戻そう
  • ソーシャルメディアはエンゲージメントを高める所
  • 「困ったこと」のビックデータ解析が、マーケティングの鍵に
  • 机上の空論にならない経営計画
  • 事業承継の最重要課
  • どんな会社でも能動的な営業・販売をすることなく、「顧客の欲求」を動かす事ができる。
  • 変容する中国で生き残る 戦略マップによる経営の可視化を
  • HIT法による業務の可視化
  • 「バズる」ブログ - その運営の裏にある組織風土とは
  • クラウド時代の業務改革
  • 中堅企業が取組む現実的な業務改革とは
  • 日本のベンチャーが世界で活躍する日
  • 組織変革のためのZERO経営とは
  • 組織は劇的に生まれ変わる
  • プロジェクトリーダーの育成
  • コミュニケーション不全を解消し、組織力を高める
  • サプライチェーン・マネジメントと業務改革
「経営に役立つ記事」セレクション
共創ワークショップ
特集「経営の可視化」
Information