サプライチェーン・マネジメントと業務改革
業務改革を成功させるポイントとは
橋本 琢磨
業務改革が失敗するワケ
パッケージは『決められた業務フロー通りに作業すること』を前提としています。たとえば、何十年も取引のある企業から、支払いを2週間だけ待ってほしいと言われたとします。長いつきあいがあるので、いつものように商品だけ先に納品するのではないでしょうか。しかし、ERPパッケージだとそうした融通が全く利きません。決められた期日に入金履歴がない企業とは取引ができなくなってしまう。そこでシステムをカスタマイズせざるを得ないのです。これはあくまで一例にすぎませんが、実はこのようなイレギュラーなケースが数多く発生しているのです。
うまくいかないもうひとつの原因として、システムやERPの導入を支援する側が客先の現場や内情を知らなさ過ぎることがあります。パッケージありきでプロジェクトをスタートさせると現行の業務に無理やり合わせるためムダなカスタマイズや追加機能が発生してしまいます。出来上がってみると、今までよりも使い勝手の悪いシステムになってしまい、やがて使われなくなったり、最悪の場合、前のシステムに戻すようなことが起きるのです。業務改革といいながら現行業務を捨てて新たな手法を取り入れないと、悲劇が待っています。このような問題は、業務フローや作業標準書類が整備されていない企業に多く見られます。
大切なのは導入する前に、自社の業務フローがどうなっていて、新システムを導入することによって、どう変わるかを事前に十分話し合い、費用対効果も含め検討することです。さらに、新旧業務フローを比較することによって、自社の問題点が目で見てわかることができます。たとえば、棚卸し作業などでいまだに夜中の1時くらいまでかかって「ここにあったの誰か知らない?」と毎月同じ事をやっています。これは、以前から「そういうもの」だと思っているので、問題として意識していないため改善されないのです。業務フローができていれば新しくシステムを導入しようとした時、新業務フローと比較し、どこに無駄があるのか一目でわかり、作業効率も大幅に改善されるはずです。
業務改革を進める時やっておくべきこと
業務改革を進める際のポイントは、まず社員の意識改革が必要です。何のためにその業務をおこなっているかを意識して知ることから始めます。
あたりまえに日々行っている作業をもう一度見つめ直し、その業務の最終目的をはっきり知ることが肝心です。提供しているサービスや毎日行っている作業にも必ず目的があり、形を変えて人や社会に役立っているはずだと意識できれば、業務に対する問題意識が必然的に芽生えてきます。
経営トップは業務改革を推進させるため、変わらぬ方向性=ビジョンを常に示さなければなりません。また、業務改革が成功することによって、企業目標を達成したならば、社員へ利益分配を行い、取引に関わった業者や地域へ還元することも重要です。そして全社一丸となって、さらなる高いハードルに目標を設定できるのです。
次に必ずやっておかなければならないことは、作業標準書の作成です。とくに物流関連部署はマニュアルが少ない。現状は、担当者によって作業が語り継がれている場合が非常に多いのです。まず業務と担当者の作業を洗い出し、業務フローを作成します。それに基づき、1つの動作=作業ごとに正しい作業方法を示し、それを標準化させるのです。このように正しい作業を決めることで誰でも同じことができるようになります。
システムを導入するのは、こうした一連の作業が終わってからでも遅くはありません。「自分の仕事に問題意識を持つこと」=「業務改革」です。ぜひ、取り組んでみてください。
業務改革の余地が大きい物流部門
上記以外で物流に関しての一般的な取り組み方、注意点をご紹介します。
・改革取り組みの範囲を明確にする。サプライチェーン全体を見据えた取り組みが重要
・物流戦略ビジョンを明確にする。業務改革を実施して中長期的にどういう方向へ向かうのか、あるべき姿は何かをあらかじめ決めておかないと、改革がブレてしまいます。
・在庫・物流コスト削減。全社的な在庫削減・物流トータルコスト削減の構想を策定すること
・物流集約及び一元化。部門ごとに物流担当をもつなど一元管理できていない企業が多い。重複している部分を一元化するだけでも大きなコスト削減が可能です。
・商物分離。改革を阻害する商物一体をシステム活用することで管理する方向に変えます。
・差別化。物流拠点・在庫配置・受発注・納期・物流コスト・L/Tなど他社比較。
・IT活用。基幹システムからの分離を前提に、あるべき姿がはっきりしたのであれば、その時点ではじめてITの活用を考える。
また、システム再構築を検討する場合、必ず必要となってくるのは
・作業標準書の作成
・現行の業務フローの見直し、なければ作成
・あるべき姿の新業務フロー検討と作成
物流部門は企業の中で比較的問題がクローズアップされにくい部署です。たとえば、トヨタのカンバン方式は、部品調達の効率化という点では大変優れた考え方でした。しかし、物流の観点からですとひどいもので、朝の8時半にしか工場への搬入を受け付けないので、それに間に合うように各地から少量の部品を積んだトラックが工場近くの路上やコンビニの駐車場、あるいは高速道路のパーキングエリアに溢れていました。必要なものを必要なだけ生産するといった一見優れた考え方ですが、すべてのしわ寄せが物流部門にきていたわけで、物流の効率化という観点から見ると改善点の多い仕組みだったのです。このように、物流は今までないがしろにされていたからこそ、改革の余地が大きいと思います。物流における業務改革は今後のキーになる可能性があります。ぜひ、御社でも物流のあり方について考えてみてください。
9億円かかるはずのシステム再構築が約3億円弱に
ここで、弊社がコンサルティングを実施した半導体部品を扱う販売会社A社の業務改革の事例をご紹介します。
A社は全国に12拠点あり、それぞれにシステムが導入されていました。そのため、月末になると、各拠点からデータを吸い上げ、統合するといった作業を繰り返していました。このような運用方法は大手システムベンダーが一時推奨しておりそれにまんまと乗っけられていたわけです。データ量も将来を見据え分散する必要性がありませんでしたので、すぐにデータベースを1カ所に集約してもらいました。
また、販社でしたので、営業部門の力が非常に強く、売り上げの大きい営業パーソンに対して手厚いペイバックを実施していました。すると、デキル営業パーソンとそうでない人の差が広がり、ノウハウの共有が行われなくなっていたのです。
そこで、全員がノウハウを身につけることができるよう、営業ノウハウの標準書を作りました。注文をもらうまでのノウハウや、商談での話し方といったことまで、それまで個人の能力だと思われていた部分にも目を向け、取れる営業マンの標準マニュアル初版を作成していき、平均的に注文が取れる『仕事が取れる仕組み』に変えていきました。
一方で、既存の業務フローの見直し~策定、それから作業標準書作りにも取りかかりました。それらをシステム化したのですが、システム再構築で当初約9億円かかるといわれていましたが、上記の作業を行った結果、約3億円弱ですんだのです。しかも、当時の売り上げは270億円くらい。システム導入後の現在は480億円にまで大きく成長することができシステムも対応できているようです。
最初にシステムありきではなく、仕事のやり方そのものを見直したからこそ、実現できた事例だと思います。ITベンダーは次々と新しいシステムツールを売りにやってきます。しかし、そうしたものに迷わされることなく、本来やるべきことをまずはやるべきです。
具体的に業務改革を行おうとしても、なかなか難しいとお考えの方は多いのではないでしょうか。まず、やり方がわからない。わかっていたとしても、失敗したときの責任をとりたくないなどさまざまな事情があると思います。弊社は、提供するサービスに対して、お客様が納得しなければ費用は頂きません。あたりまえのことですが「ありがとう」と感謝されてはじめて代価を頂戴します。我々のサービスはシステム構築・運用を通してユーザー側の人材を育成するのが大きな目的です。
コンサルティングを行うだけでなく、プロジェクトを通じてお客様側の人材を育てていきますので、私たちが抜けた後でも、改革が根付くのです。ぜひ、弊社トラストネットワークまでお声がけください。(終わり)