共創スクエア
2016/05/15
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グローバリゼーションの流れは日本の経済や社会の在り方に大きな影響を与えてきている。それは農業においても例外ではない。昨今のTPPを始めとする自由貿易の流れは、日本の農業に激震を与えていると言っても過言ではないだろう。

しかし、このような環境変化は危機だけでなく大きなチャンスでもあると語るのは元農水省官僚で衆議院議員の鈴木憲和氏だ。

農業政策に精通しているだけでなく自身でも農作物の栽培に携わってきた同氏に日本の農業経営の今後について話を伺った。(聞き手: 編集長 勝山牧生)

【ビズテリア経営企画 編集部】

マーケット・インで農業経営を実践する

鈴木 憲和 (Norikazu Suzuki)
東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。内閣官房「美しい国づくり」推進室に出向、消費・安全局表示・規格課法令係長、消費・安全局総務課総括係長などを経て、2012年、第46回衆議院選挙において自民党から出馬し初当選。

現在、衆議院においては国土交通委員会理事、総務委員、災害対策特別委員を務め、自民党においては農林部会部会長代理、山村振興特別委員会事務局次長、青年局次長を務める。

これからの日本の農業はマーケット・インの考え方に転換する必要があります。これまでは、生産者側が生産できるもの、あるいは生産したいものを生産して市場に提供するというやり方でした。これからは消費者ニーズに応える農産物をいかにして生産するかというやり方に変えていく必要があります。

実は私は農林水産省の職員だった時代に、自分でも実際に農産物を栽培していました。始めた当初は、周りの農家の方から「この地域はサツマイモの産地だからサツマイモを作った方がいい」などとアドバイスされ、その通りにサツマイモを栽培していました。しかし考えてみると、これでは消費者がその農産物を本当に食べたいのか、美味しいと感じているのかといったニーズは分かりません。

もっと消費者の声や気持ちを知り、その上で、どうやったら売れるのか、どうやったら欲しいと思ってもらえるのか、そしていくらなら買ってもらえるのか、このような消費者視点で農業経営を行う必要があるでしょう。

農業分野に若い人材を

現在、日本で農業に携わっている人は65歳から70歳が中心です。これは欧米などと比べても突出して高齢化が進んでいる状況です。もっと多くの若い人材に農業分野に入ってもらう必要があります。

「若い人は農業をやりたがらない」というイメージがありますが、必ずしもそうではありません。私が先日訪問した山形県のある農業高校では、農業分野で仕事をしたいという熱意を持った生徒さんがたくさんいるのを目の当たりにしました。農業で活躍したいと思う若者は潜在的にはたくさんいると思います。

しかしその一方で、実際に農業分野で働ける機会は限られているのが現状です。自分の家が農家であれば、その家業を継ぐことで農業に携わることができますが、そうでなければ、JAや数少ない一部の農業生産法人などに就職するなど、活躍のチャンスはそんなに多くはありません。

もっともっと多くの農業生産法人が雇用の受け皿を提供できるように事業を拡大していく必要があります。場合によってはJA自身も農産物の栽培を手掛けて雇用を作っていくことも必要だと思います。

聞き手(編集長 勝山牧生)と鈴木憲和氏

政治が変わることで農業が変わる

しかし、一番大事なことは、政治が変わることだと考えています。これまでは、補助金等で国が農家を一律に保護する政策をとってきました。これは農家が安心して働くことができるという意味では一定の意義があったと思います。しかし今後はこのような国からの支援は最小限度に抑えつつ、生産者が意欲的に取り組めるような環境整備を進める必要があるでしょう。

芸術品である日本の農業を世界に

日本の農産物を一言で言うなら、それは芸術品です。諸外国と比べると品質や味が圧倒的に優れています。各地域の生産者がこだわりをもって、きめ細かく丁寧に育てているからこそできることで、外国には真似できないものです。この強みを活かせれば、これからの日本の農業は国内だけではなく、海外に向けてもビジネスを拡大できる可能性が十分にあります。

生産者のカンやコツを科学する

しかし課題もあります。日本の生産者の持つ技術やこだわりは素晴らしいものがありますが、それらはカンやコツといった無形ものです。それをどうやって体系化したり、定型化したりして、次の世代や農業以外の産業から就農する人に伝えていくかということです。

またもう1つは、そのような農業の優位性が客観的に認知されるようにブランド化をすることです。日本の農業の強みが科学的に証明されることで、生産の効率化や品質の向上といった農業技術をパッケージとして東南アジアやアフリカなどといった農産物の生産に力を入れている諸外国にそのノウハウを提供することが可能です。

IoTを活用したグローバルな農業経営に

そしてIoTなどのインターネットを活用することで、日本の生産者が日本にいながらにしてインターネット経由で海外の耕作地の状況を把握して、リモートで栽培方法を指導するようなことも出来るでしょう。

私の地元山形県の置賜地域は米の生産地ですが、置賜の農家の方が、春から秋にかけては米の栽培に取り組み、雪で覆われる冬の期間は、東南アジアの水田の指導を行うといったようなローカルとグローバルの両面での農業経営も実現できると思います。

そのような攻めの農業経営の実現に向けて、私も地元で若手の農業経営者やIT企業の経営者などとの勉強会を立ち上げて、様々な議論を行っています。水田にセンサーを入れてリモートで状態を監視するような取り組みも試験的に始めています。10年後は地元置賜や村山が先進的な農業地域として注目され、日本中から視察がくるような地域にしたいと考えています。

日本の農業を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。そこには脅威もありますが、同時に様々な可能性もあります。「攻めの農業」の実現に向けて、これからも頑張っていきたいと思います。

(終わり)
【取材を終えて】
地元山形のこと、農業のことを楽しそうに話していたのが印象的でした。ご自身も農作物の栽培をしているということや、週末は必ず山形に帰って地元の仲間と会っているということを聞き、山形と農業を本当に愛している人なんだなあと実感しました。(編集長 勝山)
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