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2016年1月から、マイナンバー制度の運用が開始される。これは、住民票を持つすべての人に、12桁の個別の番号をつけて、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、いろいろな機関にある個人の情報が同じ人であるということを確認する制度だ。社会保障では年金や雇用保険、医療保険など、税では所得税や住民税などが対象となる。このため企業においても従業員や取引先のマイナンバーを取り扱うことになる。

このマイナンバーは法律により「特定個人情報」とされており、その取り扱いは、個人情報保護法の対象となる個人情報以上に、厳格な取り扱いが求められる。それだけに、民間企業では、どのように管理すればいいのか、戸惑っているところも多いのではないだろうか。

今回は制度の面から、個人情報保護委員会の堀部委員長に、実務の面からはアクタスマネジメントサービス株式会社代表取締役の加藤氏に語って頂いた。

【ビズテリア経営企画 編集部】

国家による個人情報管理ではない

堀部 政男 (Masao Horibe)
個人情報保護委員会 委員長
一橋大学名誉教授

東京大学大学院修士課程(基礎法学)修了、東京大学助手、一橋大学専任講師、同助教授、同教授、法学部長を経て、1997年中央大学法学部教授(2007年退職)。一橋大学名誉教授。
2014年1月 特定個人情報保護委員会、初代委員長就任。
2015年6月、米患者プライバシー権利財団、2015ルイス・D・ブランダイス・プライバシー賞受賞。
著書に「アクセス権」(東京大学出版会)、「アクセス権とは何か」(岩波書店)、「現代のプライバシー」(岩波書店)、「情報化時代と法」(NHK市民大学テキスト/日本放送出版会)など多数。

加藤 マイナンバー制度の利用が2016年1月からスタートします。私どもでは、制度導入にあたって、民間企業の支援をさせていただいています。その立場から、堀部委員長のお話をおうかがいしたいと思っています。

最初に、導入の背景や経過などを教えていただけますか。

堀部 公平・公正な社会の実現、国民の利便性の向上、行政の効率化のための社会基盤(インフラストラクチャー)の構築という目的があります。日本の将来に向けて避けて通れない、税と社会保障の一体改革のために、番号制度が検討され、導入されました。

社会保障・税に関わる番号制度検討会の第1回会合は、2010年2月に開催されました。民主党政権下です。2012年2月には、最初の法案が国会に出されたのですが、12月には解散総選挙のために廃案となりました。2013年3月に自公政権で法案が提出され、5月に成立しています。

その後、準備が進み、キャラクターとしてマイナちゃんも誕生しました。そして2015年10月5日から通知を開始し、2016年1月から運用されます。さらに2017年には自分の情報をインターネットで確認することができるマイナポータルもスタートします。

加藤 マイナンバー制度は国民総背番号制だと思っている人がいますが、いかがでしょうか。

堀部 国民総背番号制とは何かは必ずしも明らかではありませんが、国民総背番号で、個人情報が国家によって一元管理されるという趣旨で理解しますと、そのようなことができないようになっています。

2011年2月から個人情報保護ワーキンググループで検討し、一元管理しないようにしました。番号法では、例えば、法律に定めがある場合を除き、マイナンバーの収集・保管を禁止する規定が設けられました。また、個人情報は、これまでと同様に、年金の情報は年金事務所、税の情報は税務署でそれぞれ分散管理されます。

個人情報は保護しながら利活用することに意味がある

加藤 幸人 (Yukito Kato)
アクタスマネジメントサービス株式会社 代表取締役
アクタス税理士法人 代表社員

1998年、現在のアクタスマネジメントサービス㈱の前進であるマネイジメント・システム研究所㈱の代表取締役に就任。現在はアクタス税理士法人の代表社員も兼務。

税務会計を基礎とした経営的な視点でのコンサルティングを中心に、企業再生や事業承継などのコンサル業務にも積極的に取り組む。税務や経理実務などのセミナー講師としても活躍。「はじめてでもスイスイわかる! 経理「超」入門」、「事業承継Q&A」、「先輩がやさしく書いた『総務の仕事』がよくわかる引き継ぎノート」など著書多数。

加藤 マイナンバーをどのように使うのか、どこまで管理すればいいのか、民間企業も個人も理解が完全という状況ではありません。

堀部 各人は、年金や健康保険などの社会保障関係、税務関係の手続き、災害対策で個人番号を提出することになります。逆に言えば、これ以外で使うことはありません。

ネット上にはマイナンバー占いなどがあるということですが、こうしたサイトにマイナンバーを入力してはいけませんし、そもそもこのような形でマイナンバーを取得するのは違法です。

民間企業では、マイナンバーは、一般的には経理や人事の担当者が扱うことになります。

加藤 管理の一方で、プライバシーの心配もあります。また、そのために、マイナンバーの導入には懸念をお持ちの方もいらっしゃると思います。

堀部 マイナンバー制度のようなしくみは、先進国の多くですでに導入されています。海外でも当然、プライバシーを保護する方策がとられています。しかし、なりすましなどの問題が起きています。日本では、番号法でそうならないように本人確認を厳格に行うようにしました。

個人情報保護の分野では、目的明確化の原則や利用制限の原則があり、特定の目的以外には使わないということが大切です。

個人番号が適正に取り扱われるように監視・監督するために独立性の高い専門の第三者機関として、私たち、個人情報保護委員会が設置されています。

中小企業は身の丈にあったマイナンバー対応を

堀部 民間企業の方が、御社にマイナンバーでいろいろ相談されているかと思います。どのような相談が多いでしょうか。

加藤 大手企業は対応が進んでいますが、中小企業には、どこまで具体的な対応が必要なのか分からないという声をよく聞きます。これは、個人情報保護法への対応が大企業のみですんでいたことで、その経験が生かされることに対し、マイナンバー制度はすべての企業が対応しなくてはならないという点が影響しているのだと思います。

また、マイナンバーの取り扱いで困っていることとして、例えば、保管方法がなかなかイメージするのが難しいようです。

従業員から人事部門や経理部門に番号を通知されるのですが、これをどのように保管すればいいのか。誰でもアクセスできるところに置くわけにはいきません。パソコンも、特定の人しか開けないファイルにしておく必要があります。

もっともシンプルな方法としては、紙にマイナンバーを記載し、それを金庫に保管すればいいということもお伝えしています。金庫での保管がきちんとしていれば外からアクセスすることができません。必要なときにだけ、金庫から取り出し、利用記録をつけていきます。また、マイナンバーをパソコンのデータで扱うことがありますが、そのような電子データが不要になったら復元できないように消去することも必要です。紙でも電子データでも、最後はシュレッダーをするイメージです。

堀部 個人情報保護委員会では、法律をきちんと理解していただくいために、ガイドラインを策定し、また、それを解説した資料なども作成しています。

御社では事業者のマイナンバー対応を支援されていると伺いましたが、具体的にはどのようなものでしょうか?

加藤 会計システムの「勘定奉行」で有名なOBC様と共同で、「マイナンバー制度導入支援キット」を作成しました。これは、導入ガイドや規定・業務フローのテンプレート、社員教育のための動画や小冊子、専門Webサイト、Q&Aなどをセットにしたものです。これで、マイナンバー対応でどうすればいいのか、具体的にわかると思います。さらに、お困りの皆様には、コンサルティングサービスを提供させていただいています。

中小企業がマイナンバー制度に無理なく対応できるように、アクタスではOBCと共同で、導入支援キットを提供している。また、マイナンバーの収集・保管をアウトソーシングするサービスも運営。

また、厳格な運用が必要なマイナンバーの取得や管理は、企業にとっては大きな負担です。そこで、私どもでは、マイナンバーの収集・保管のアウトソーシングサービスも提供しております。OBC様のマイナンバー収集・保管のシステムと、私たちのアウトソーシングサービスを組み合わせることで、クラウド上でマイナンバーを安全に保管できます。企業の方はマイナンバーに触れなくてすみますし、漏えいさせないための厳格な管理からも解放されます。

堀部 アウトソーシングサービスの提供は中小企業が中心ですか。

加藤 そうでもありません。今回のマイナンバー対応は大企業でも悩まれているようです。私たちは日頃から中小企業から大企業まで幅広くご支援をしておりますので、今回のマイナンバー対応でも同様に幅広くお客様のご支援をしております。

人事部も経理部もワンストップでマイナンバー導入支援

アクタスではマイナンバー制度開始に先駆けて、制度対応で最低限おさえるべきポイントをまとめた書籍を出版。「マイナンバー対応はこれだけやれば大丈夫!」(中央経済社)

堀部 企業でマイナンバーを扱う部署としては、人事部や経理部になると思いますが、一般的にどちらの部署の理解が進んでいますか。

加藤 お客様と接していての感じでは、従業員のマイナンバーを厳格に管理する必要性からか人事部門の取組みの方が早かったですね。経理部門におきましても準備は進んできております。これからは、人事部門のみならず、経理部門にも積極的な情報発信をしてきたいと思っております。

その点、私たちは税理士法人と社会保険労務士法人の2つの組織を抱えていますし、システムは人事部・経理部の両者に対してコンサルのご支援をしてきておりますので、マイナンバーに関するお客様の様々なニーズに対しても、私どもはワンストップでお応えすることができると考えています。

堀部 個人情報保護委員会としてもみなさんのマイナンバーが十分に保護され、適切に運用されていくように、監視・監督を行って行きたいと思います。

加藤 私たちも、マイナンバー制度の定着に少しでもお役に立てるよう、努力していくつもりです。

(終わり)
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