情報化の進展が世の中を大きく変えています。企業環境はますます不確実性を増し変化の激しいものとなっています。そこで組織を変化に迅速かつ柔軟に対応できる能力を持った自律分散型に作り替えなければなりません。現在の企業競争は新たな時代に適合する組織作りの競争であると言っても過言ではないでしょう。
そのため、日本企業の経営において、これまで以上に戦略を明確にし、業務や経営の見える化を図らなければなりません。さて、ここまでの話に異論を持つ人は少ないでしょう。
では、なぜ、戦略を明確にし、業務や経営の見える化を図る方法論である"Balanced scorecard(BSC)"が日本企業になかなか定着しないのでしょうか。
本稿では、その点について考えてみたいと思います。
20世紀後半、管理会計が強化され、短期利益目標達成へのプレッシャーが強まり、長期的投資の減少につながりました。管理会計が企業の業績や戦略に適さなくなっているのに、多くの経営者が企業を"数値によって"管理できると信じ、財務的業績指標に偏った経営を始めました。これに対する危惧から、BSCが開発されています。
さて、BSCは大きく二つのフェーズに分けられます。まずは戦略マップを描く戦略立案フェーズです。次が戦略マネジメントフェーズです。戦略立案フェーズで抽出された戦略目標に対し、その達成度合いを評価する指標であるKPIを見つけだし、その達成目標とそのために実施するアクションを決めます。戦略目標、KPI、目標値、アクションなどを記述したスコアカードによりマネジメントしていきます。
筆者は、最近、二つの製造業のグローバル企業を訪問しBSC導入状況を調査しました。 電機メーカーであるA社はBSCを先進的に導入した企業です。業績はBSCを導入した2003年頃は好調でしたが最近は低迷ぶりが顕著です。A社ではすでに戦略マップは作成しておらず、スコアカードだけを使っていました。そして、戦略目標もその数で財務目標>非財務目標とのことでした。全体的な印象として、すでにBSCではなく、通常の目標管理を行っているとの印象を受けました。
一方、B社は半導体部品メーカーですが、業績を順調に伸ばしています。BSCを導入したのは2008年と遅いのですが、これまで継続して運用してきています。戦略マップを描くのは事業部門のみですが、戦略マップをコミュニケーションツールと考え、できるだけ多くのメンバーが参加して作成しています。スコアカードについては、管理手法であり徹底し過ぎて成果主義の悪い面が出ないように注意しているそうで、以前から取り組んでいる組織風土改革と両輪でバランスを取りながら推進しているそうです。BSC導入により社内のコミュニケーションがかなり増えたそうです。
BSCは目標管理の発展型ということができると思います。P.ドラッカーが目標管理を提唱した際、Managing By Objectives and Self-controlとしています。A社が従来の組織観を変えずにBSCを導入したため、BSCが管理のツールとなってしまい、従業員の目標管理への積極的な関与が得られなかったものと思われます。一方、B社は組織風土改革をしながら目標管理を行う側のコミットメントを引出すことに努め、Self-controlできるよう留意しています。 これからの目標管理やBSCは,ビジョンや戦略を明らかにし,それに従った戦略目標を共有するための仕組みであり,コミュニケーションを通じた人材育成の仕組みです。そこではこれまで組織(あちら)の側から押し付けられた目標ではなく、Self-controlとなり,目標は自分(こちら)のものとなります。
Self-controlによる目標管理に基づく新たなBSCの考えをBSC2.0と呼ぶことにします。日本企業は新たな時代へのパラダイムシフトを図る必要があり、そのためにBSC2.0導入による企業変革を実践すべきではないでしょうか。