中小企業の半分近くで後継者が不在と言われており、後継者不在のまま経営者の高齢化が進んでいます。これは伝統的な親族内承継が減少していることが背景にあります。
本稿では、事業承継の手法として①伝統的な親族内承継とその問題点、②最近増加しているM&Aによる承継の留意点、③SPCを活用した社内後継者への承継、について述べたいと思います。
事業承継において親族内承継はここ20年で激減(図1)していますが、日本では自分の子供に事業を継がせたいと考えていた経営者が多いのではないでしょうか。
日本の商家では古くから家業を子供に継がせるのは自然な流れでした。このような親族内承継には会社の文化や理念を引継いで共有できる良い面があり、短期的な利益の追求ではない長期指向の経営が可能になるなどのメリットがあります。
しかしながら、そのような伝統的思考の影響を受けながら、いつかは自分の子供に事業を承継させよう、そのような気持ちが結果として後継者の不在につながった可能性があります。
「他人の飯を食わせて」から自分の会社に入社させる年齢が20代後半とすると子供の入社時にすでに親世代経営者の年齢は40代後半、子供が30歳台の時に事業承継しようとすると親世代の経営者は承継時に50歳を超え60歳近くになってくる場合も多いと考えられます。
親の苦労を間近でみた子供世代が、「他人の飯を食わせる」予定で入社した大企業でそのままサラリーマンに安住してしまいリスクをとることを回避することも多いようです。
後になって子供が事業承継を拒否した場合、もしくは子供に承継能力が無い場合、そこから後継者の育成を始めなくてはなりません。子供が事業承継しない、と明言してから後継者を探そうとすると後継者の育成が遅れることになります。
中小企業においては経営者の高齢化が進むほど会社の成長も鈍化する傾向があり(図2)、若い世代への経営のバトンタッチは中小企業の成長のための必須条件といえます。
経営者の高齢化により成長が鈍化することを反映してか、うまく事業承継に成功した中小企業においても、もっと早く承継をすればよかったと考える経営者が事業承継時の年齢40歳未満でも9.3%も存在し、60歳以上では42.6%に達する(図3)など、より若い世代での事業承継が必要なことは間違いないようです。
そもそも、子供がよほど企業家精神を持って自ら切磋琢磨するタイプであり、経営者の資質を持っていれば別ですが、後継者は経営者が責任をもって中立的に定めるべきと考えられます。
親族内承継が減少するとともに、第三者へ事業承継させるM&Aも一般的になってきました(図1)。
経営者として資質のある第三者に事業を承継できる可能性がある点で、M&Aによる事業承継は事業の発展に寄与しうる可能性があります。
私共でも後継者不在の会社のM&Aのお手伝いをさせて頂くことがありますし、中小企業のM&Aの専門会社として上場している会社もあります。
これら中小企業M&Aの専門会社として上場している会社は、相手先候補のデータベースも豊富で、それなりの規模で案件のマッチングを行うため「お見合い」に至る可能性が高いことがメリットとして挙げられます。
一方で、上場会社は投資家から業績の達成が求められるため、定例の営業会議でM&A案件の進捗をチェックして、「いついつまでに何件決めろ」的な予算管理が行われている場合もあるので注意が必要です。大事な事業の承継先を選定するのですから、案件の成約だけを目的とするようなアドバイザーは避けなければなりません。
社内後継者がいる会社においても後継者に実施的な経営権を渡すためには会社の株式を引き渡す必要があります。中小企業の経営においては、経営者が実質的な支配権を有する必要があるため、株主として取締役の選任権限を持つことは必須と言えるからです。
しかしながら、社内の後継者が株式を取得できるだけの資金を保有しているのは稀なケースです。資金が無ければ株式の購入はできません。もし時価よりも安い価格で譲渡すれば本来受け取るべき対価についてオーナーが後継者に贈与したものとして贈与税がかかってしまいます。
そこでSPCを活用した方法の登場となります。以下がその方法を図示したものです。
簡単に言えば、借金して旧株主の株式を買い取ったうえで、会社の収益力で借金を返していく方法です。この方法では後継者個人の資金が無くても、株式の買取が可能となります。
なお、SPCというのはSpecial Purpose Companyの頭文字をとったもので、日本語で言えば特別目的会社です。株式買取りのための普通の会社を設立するだけのことです。
現金を稼ぐ能力のある会社で、借入金が少ない財務状況のよい会社であればこの方法の活用が可能です。会社分割等を活用して不動産等の事業と関係のない資産を切り分けることで、事業だけを後継者に承継することも可能です。
社内後継者が存在しているのに、株価が高いことで承継に踏み切れないような会社であればぜひ検討の余地があります。なお、この方法は親族内承継においても活用が可能です。
私共でもこのようなSPCの設立、返済計画の策定、借入金の調達、等のお手伝いをさせて頂くことが増えております。
(終わり)