企業変革のためのトータルインナーブランディングその概念と具体例
企業ブランドと競争優位性(第3回)
丹生 光
競争優位性を高めるためにブランドマネジメントを行うことは一般的になったが、とりわけ「トータルインナーブランディング」に注目する企業が急速に増えている。ブランド「を」いくらマネジメントしても企業の本質は変わらない。企業の本質を変革していくには、もう一歩進めてブランド「で」マネジメントする段階まで進める必要があるからだ。
それはブランドアイデンティティーの実践を通じて事業戦略や業務プロセスを変える、あるいは社内の組織変革を行うことなどを意味している。
ブランドアイデンティティーの内容を社員に理解させる研修、冊子配布、社内広報など、狭義のインナーブランディングだけでは不十分だ。ブランド研修を受けてその重要性はわかったが、さて自分は明日から何をしたらよいかわからないという反応がじつに多いのである。
やはり、経営としてブランドを通じて何を目指し、そのために何をやってほしいのか、社員がわかるように明確なメッセージを伝えなければならない。その上で、お客様との全てのコンタクトポイントにおいて、目指す姿の実現に向けてブランドの基準によって日常業務をマネジメントできるようにするための基盤作りに取り組む必要がある。
トータルインナーブランディングの概念は(図1)に掲げた。ブランドを実現するための全てのコンタクトポイントでの日常企業活動をマネジメントする必要がある。では、具体的にはどんな課題に取り組めばよいのだろうか、それを自明的に導出することは難しい。そこで、企業価値を高めるために取り組むべきと考えられる具体的なテーマの例を(図2)に示した。
これらは、それぞれのコンタクトポイントで新しい時代の要請をふまえてブランド価値を高めていくためにふさわしいテーマのいわば最新版のサンプルである。一部の先進的な企業が部分的にせよ、ある程度実践している内容をコンセプト化して集大成したものだ。これを全て企業がそのまま実践することがかならずしもベストとはいえないが、少なくとも皆さんがそれぞれの業界の中の企業価値を一頭地抜きん出たものにするために検討しても良い課題だといえよう。(つづく)