トータルインナーブランディングによる企業変革の具体例
企業ブランドと競争優位性(第4回)
丹生 光
競争優位性を高めるために「トータルインナーブランディング」に注目する企業が増えている。企業の本質を変革していくには、ブランド「を」マネジメントすることからもう一歩進めてブランド「で」全社をマネジメントする必要があるからだ。
それはブランドアイデンティティーの実践を通じて事業戦略や業務プロセスを変える、あるいは社内の組織変革を行うことなどを意味している。このトータルインナーブランディングの概念は前回にご紹介した通りである。
ブランドを実現するための全てのコンタクトポイントでの日常企業活動をマネジメントするのだが、では具体的にはどんな課題に取り組めばよいのか。企業価値を高めるために取り組むと有効と考えられるテーマの例についていくつかご紹介したい。
1.『ブランドアイデンティティーによる企業改革構想策定』
ブランドアイデンティティーの構築からブランド価値向上への経営課題抽出し、課題解決策の策定までを行うことである。ブランドアイデンティティーとは、お客様は誰か、提供価値は何か、どのような独自能力で提供するのかを定義し、お客様に約束することである。そして、それを実現するために達成すべき経営課題を明確化し、その課題解決の方策を立案するのである。このようなプロセスによって企業ブランドのありたい姿を具体的に実現するための施策に落とし込むことができる。逆にこれをやらなければ、ブランドアイデンティティーは単なる絵に描いた餅に終わることになる。
2.『企業価値を向上する中期経営計画』
ブランドを含め、将来の実現したい会社の姿をリアルなイメージとして具体化し、その実行計画としての中期経営計画を策定することである。通常作られる中期経営計画は、売上・利益等の経営目標を達成するための実行施策をまとめる形を取ることが多い。しかし、この進め方の難点として、その経営目標を実現した会社の姿のイメージがはっきりせず、従業員の共感を得られにくいという問題点がある。それに対して、ありたい将来像をストーリー(物語)の形でイメージ化し、伝えていくという新しい方法がある。これにより、従業員にも将来どのような会社になりたいのかのイメージが伝わり、それに向けての実現意欲が湧いてくるという効果がある。その結果、施策の実施率が高まるという波及効果も出てくる。