可視化経営と企業内コミュニケーション
J-SOX施行の先にある「次」の課題とは
代表取締役 松原 寛樹
J-SOX法の施行後の課題として、今後浮上してくるのは、作成された内部統制報告書と実際に運用されている業務との比較です。
本当に文書化された業務が運用されているのかどうかの検証。それが第一段階です。報告書に書かれた「理想」とのギャップが生じている場合は、それをどう埋めていくかが問われます。
その上で実際に運用した結果が内部統制上、有効であるかどうかをテストし、その証跡を残すという作業が発生するわけですが、企業側の立場としてはそれをいかに効率よくクリアしていくか。ここが今後のもう一つの課題になってくると思われます。
ただ、内部統制が進んでいる先進企業の業務レベルで言えば、例えば経理業務の可視化、営業業務の可視化、さらに製造業務の可視化などは、すでにどこもかなりのレベルまで到達しています。技術的にも、品質的にもそれほどは差が出てこないのが現状です。
その場合、内部統制面での他社との差別化を図ろうと考えるのなら、今後は「業務の可視化」よりも「経営の可視化」に着目すべきと思われます。
差別化を図れる企業とそうでない企業の差
では、具体的に「経営」のどの部分の可視化で他社との差別化を図るのかと言うと、「経営者の考え方」や「経営理念」、「経営方針」、あるいは「戦略の優位性」という部分です。
それらが単に経営者の頭の中だけでなく、管理者、従業員へ向けたメッセージとして社内に浸透させていけるかどうか。これを実行できる会社とそうでない会社との違いが、今後の先進企業における内部統制面での差別化の一つになっていくと思われます。
以下ではそうした経営者の考え方や経営理念、経営方針などを、その実行の過程も含めて可視化していく方法について説明をいたします。
そもそも可視化というのは、絵に描くだけでなく、それを実行させなければ意味がありません。つまり、戦略の可視化と同時に、その実行の進捗状況の可視化も忘れてはいけないということです。
PLAN(計画)・DO(行動)・CHECK(チェック)・A(アクション)の「PDCAサイクル」を回していく場合でも、P・D・C・Aのそれぞれの段階での可視化が重要であり、経営者は常にその進捗状況を見ていく必要があります。
ではなぜ、戦略の可視化には「実行」部分の可視化が重要なのでしょうか。それがうまくいっている企業とそうでない企業の例を挙げて説明してみます。
温度差のギャップを埋める
繰り返しになりますが、戦略の可視化を実行している会社であっても、当然ながらうまく実行できている会社もあれば、そうでない会社もあります。
例えばよくあるのが、経営者は内部統制にかなり力が入っているものの、管理者クラス以下は冷めているというケースです。またその逆もしかりですが、この経営者と現場の社員との「温度差」がよく見受けられます。
当然ながら、その意識に温度差があると、社内に一体感は生まれません。戦略の可視化およびその実行の可視化をすることで、そうした経営者、管理者、従業員の温度差のギャップを埋めて、全社が同じベクトルで考える組織の一体感を生み出す効果が期待できます。
双方向での情報交換の場を
では、そのための具体的なアプローチの方法ですが、まず経営者側からのアプローチとしては、取り決めに対してきちんと従業員に報告を行うコミュニケーションの場を設けることです。例えば社内報や勉強会などです。
逆に従業員側からのアプローチでは、従業員の間での取り組みを定期的に経営層に対して提案・報告する定例ミーティングや発表会などのイベントの場を持たせます。
そして、大切なのはそれを形骸化させずに、「双方向」での情報交換の場を持たせることです。一方通行ではない、双方向でのコミュニケーションであることがポイントです。
それによって経営者は従業員の視点をもって経営ができるし、逆に従業員は経営者の視点でもって業務をこなしていける。そうしたコミュニケーションの場というものを、どういう形であれ、会社経営の中に取り入れて可視化していくことです。
言い換えればそうした双方向のコミュニケーションが取れない形でのアプローチを行っても、形骸化した紙上だけの議論になってしまう可能性が高いということです。
体系的な取り組みを見せる
各企業の従業員の声をリサーチすると、「経営者はその時々でバラバラな事を言っていて、一貫していない」という不満の声を聞きます。
これも双方向でのコミュニケーション不足による組織の一体感の欠如によるものです。