楽天株式会社は、26年度12月期第3四半期の決算において、売上収益4,242億円(前年比14.7%増)、営業利益731億円(前年比3.0%増)という結果を残す高業績企業である。
そして、子会社に東北楽天ゴールデンイーグルス(プロ野球球団)を保有している。東北楽天ゴールデンイーグルスは、昨年日本シリーズを征し、初の日本一になったが、14年度は、大黒柱田中のヤンキース移籍、星野監督の病休などもありチームは投打に精彩を欠き最下位に甘んじた。
その病気療養中、星野監督の代行を務めたのが、大久保二軍監督だった。戦績は、8勝9敗1分。この実績をどうみるか野球素人には難解だが、三木谷楽天オーナーは、二軍監督の成果(ファームイースタン4位)も含め高く評価し、次期監督に抜擢した。(10月14日突然の記者会見でお披露目となる)
さて、大久保監督とは、どういう人物なのか。東北楽天ゴールデンイーグルスオフィシャルサイトによれば、球暦・茨城県立水戸商業、西部ライオンズ[1985~1992]、読売ジャイアンツ[1992~1995]引退、コーチ暦・埼玉西部ライオンズ[2008年・2010年]、東北楽天ゴールデンイーグルス[2012~]、主な通算成績・試合出場303、打席696、本塁打41、累打301、打点100、打率249。大目に見ても野球人とて華々しい活躍だったとは言い難い。
さらにウィキペディアを読むと、引退後の芸能活動(芸名デーブ大久保)やプライベートの異性問題、そしてコーチ時代の暴力問題の印象が残る。どうやら熱が入りすぎるとカラダが余計に動いてしまうようだ。さらにネット上では地元ファン中心に4000件あまりの監督就任反対署名活動が行われた。つまり、野球人としてより、他の(世間的によろしくない)理由によるメディアへの露出が印象的な人物と映る。
本題だが、三木谷オーナーは、その大久保監督を大抜擢したわけだが、なぜそのような決断したのか。筆者は抜擢理由について3つの仮説を立てた。
1)若手育成重視説
ダルビッシュ、田中マー君に代表されるように若手は金の卵。勝つだけでなく多くの金を生み出していく。もちろん、野球だけでなくサッカーやバスケ、アメフトなども金の卵たちは桁外れのマネーを動かす。それらの才能を見出し、育成し、開花させ、スターダムに押し上げていくコーチ陣がいれば、フロントは重用するに決まっている。つまり、大久保監督はその天賦の才があると見込まれて抜擢された。
2)暗黙的内部統制仮説
楽天の総売り上げ収益は第3四半期で4千数百億円。営業利益は700億をゆうに超え、関連企業は海外を含めると40社以上。一方メディアの露出は大きいが東北楽天ゴールデンイーグルスは、売上、利益[非公開]、総資産100億程度の一子会社。しかし、この監督人事にはグループ企業内経営トップに対して強烈なメッセージを含んでいる。「世間の雑音に振り回されるな。勝つために最高の手を打て」
つまり、自分が見込んだ世間では評判の悪い輩の電撃的な抜擢人事を敢行し、暗黙的な内部統制を図った。
3)実は名監督カミングアウト直前説
「名選手必ずしも名監督にならず」どの競技でもまことしやかに流れる都市伝説。逆説的に言えば、伝説の名監督は選手時代ぱっとしなかったヤツが多いということか。つまり、大久保監督は、現場の長としてとんでもなく優秀な監督で、常勝軍団を作り、数多のトロフィーをオーナーに届けることができるホンモノの監督と判断した。
今回の監督人事は、ビジネス界に置き換えるとセクハラ、パワハラまがいの輩を業績重視で現場の長に抜擢し、部下のモチベーションを蔑ろにして高業績を期待する人事と勘ぐられがちだ。しかし三木谷オーナーの判断は、実はしたたかな戦略と強烈な内部統制が入り組んだ宝玉のアマルガムなのではないか。さらに、多様なビジネスを展開するグループ経営の新たな人事コントロール手法となるのではないか。
かなり、妄想も入っているが、東北楽天ゴールデンイーグルスファンだけでなく、人事でお悩みの企業トップにとっても今後が楽しみなのはチームであることは確かである。