共創スクエア

マーケティング・デザイン・ハウス

「目指す所」を起点として価値を考える

専門家に聞く「そもそもマーケティングとは何か」

代表 巽 有資

共創スクエア

ビジネスシーンでよく使われる言葉、マーケティング。社内にマーケティング部という部署を置いている会社も少なくないでしょう。

しかし、社内でマーケティングとは具体的に何をすることなのかが明確に定まっている企業は少ないと思います。会議においてマーケティングに対しての認識が担当者毎に異なっているというケースもあるかもしれません。

そこで今回は、「そもそもマーケティングとは何か」ついて、専門家の方々に聞いてみました。今回は、マーケティング・デザイン・ハウス 代表の巽有資さんからの回答をご紹介します。

【ビズテリア経営企画 編集部】

定義への考察

「そもそもマーケティングとは何か」という疑問は、マーケティングを習得しようとする際に、その姿が目に見えるような形で明瞭でないために、あるいは、仮に目に見える実態があったとしても、時代と共に変化するので、定型的な実態として捉えにくく、ある意味不思議な感覚になると思います。

ここでは、マーケティングについての具体的な方法や進め方の説明には言及せず、「定義への考察」という観点から記載させて頂きます。「マーケティングを一言で訳すことのできる日本語はない」とも言われていますが、定義として一般的によく言われるのは、「マーケティングとは売れる仕組みを構築することである」ということです。しかし、この定義でさえ、実態を明確に表現できてはいません。しかも、「売れる仕組み」というのは結果論です。では、マーケティングの総本山というか、元締め的な地位にあるアメリカマーケティング協会(以下、AMA)の定義はどうなっているのか、確認してみます。

1985年の定義

マーケティングとは、個人目標および組織目標を満たす交換を創造するための、アイディア・商品・サービスのコンセプト、価格設定、プロモーション、流通の計画と実行のプロセスである。

Marketing is the process of planning and executing the conception, pricing, promotion and distribution of ideas, goods and services to create exchanges that satisfy individual and organizational objectives.

2004年の定義改訂

マーケティングとは、顧客に対する価値を創造し、コミュニケートし、それを届けるための一連のプロセスであり、さらに、組織およびその利害関係者の両者が利益を得るという視点で顧客との関係性をマネジメントするための、組織の機能および一連のプロセスでもある。

Marketing is an organizational function and a set of processes for creating, communicating and delivering value to customers and for managing customer relationships in ways that benefit the organization and its stakeholders.

2007年の定義改訂(2013年7月に承認)

マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
(Approved July 2013)

[参照URL]
https://www.ama.org/AboutAMA/Pages/Definition-of-Marketing.aspx http://www.mdhouse.jp/marketing.htm

AMAでさえ、上記のように、マーケティングという言葉の定義については、その都度、実態を言いきろうとはしているのですが、直近では2度も、しかもそれほど間をおかず、改定を繰り返しました。

価値(Value)を考える

「何が変わったのか?」という点ですが、実は、2004年と2007年に改定された定義とそれまで(1985年の定義)とでは、明らかに大きな意味のひとつの単語が加わっています。それは"value"です。ここでは、"value for customers, clients, partners, and society at large"というくだりで使われています。つまり、砕けた言い方をすると、「価値ということを考えなきゃね。」ということなのだと思います。それまでの「交換を創造する」という、ある意味、機械的な雰囲気のする定義とは明らかに異なる点です。

例えば、パン販売店舗の業者だと、提供している価値を次のような視点から考えることかと思います。
 1)顧客は、パンやそのサービスのどのような点に価値を見出して購入し、利用するのか。
 2)協力してくれる他の事業者は、どのような価値を生み出しているのか。
 3)それら一連の関係性を含めた事業は社会全体で見て、どのような価値があるのか。
 4)価値ある提供物は、どのような仕組みで成り立っているのか。

では、価値とは何でしょうか。よく価値工学(EV)の分野では、「価値=機能÷価格」と表現されます。しかし重要なのは、我々は通常、このような工学的プロセスを経て、価値を捉えることなどあまりなく、もっと単純に、「価値がある」と判断されたかどうかの方が多いのではないでしょうか。その場合、単価の計算ではなく、基本的には0か1かの世界になります。食事の時にさほどおいしくない水でも、きびしい山歩きの後の山頂で飲む同じ水は、モノ(機能)は同じでも同じ価値と言えるでしょうか。そう考えると、我々が感じる価値判断というのは、もっと生活に密着した直観的なものではないかとさえ思えます。

「目指す所」を起点とする

では、マーケティングの観点から価値はどう理解すべきなのでしょうか。完全な回答ではないかもしれませんが、弊所ではこう考えています。

価値には、価値以前に、意識的であれ、無意識的であれ、人が抱く目指す所(目的、目標、あるいは意識など)があります。おなかがすけば、それを満たしたくて(=目指す所)、ご飯を食べたい。この時、そこそこのおいしさで十分な場合もありますし、おいしさを追究して、心から満足感を得たい場合もあります。少しの量でいい場合もありますし、質より量を求める場合もあるでしょう。これは何によって判断されるかと言うと、「その時、どういう状態になりたいのか」という目指す所(目的、目標、あるいは意識など)を起点とした判断ではないかと思います。もし食べ過ぎを気にする場合(=目指す所)、満腹感は得られずとも腹八分でセーブしますし、たまにはいいか(=目指す所)となると満腹感を得て、後から、「やってしまったー!(本来、目指す所から外れたー!)」と思うかもしれません。このように、その時に感じた目指す所に到達したり、近づくことで「価値があった」として感じるのだと思います。これらは、目指す所(目的、目標、あるいは意識など)があってはじめて、商品やサービスに求める価値が明確な形となって表れることを示しているのではないでしょうか。

今時のマーケティングで考えねばならない点は、正にその点ではないかと思います。価値を語るためには、人の目指す所(目的、目標、あるいは意識など)に加え、その判断の基準、そこに至るプロセスや背景を把握しておくことはとても意味あることだと思います。宣伝になってしまい、恐縮ですが、弊所では2007年の創業以来、このポイントに重点を絞って、市場調査の研究開発を進めて参りました。それを2011年にマーケティング・デザインというひとつの体系的なサービスとしてまとめています。マーケティング・デザインについては、弊所サイトに少し紹介しています(http://www.mdhouse.jp/md.htm)。とにかく、AMAの定義の改定が示すように、今時のマーケティングを語る時には、1985年のAMAの定義に準じた従来の市場調査では、カバーできない領域に既に来ているのではないかとは思います。次にこの話に移ります。

売る現場レベルでどう考えればいいのか

「価値とはどのようなものか」について、上記にて所見を述べましたが、しかし、この議論よりも、もっと肝心要のことを次に議論する必要があります。それは、「実際に商品やサービスを売る現場レベルでどう考えればいいのか?」という点です。これは、マーケティングに関わる立場として言い換えるならば、「改定された定義の真意を市場調査にどう反映させるか?」ということでもあるのです。無論、弊所の考えが真意を的確に表現できていると思うかどうかは、読者のご判断にお任せしたいところなのですが、マーケティングの定義に直近で二度も改定があるのに、市場調査の方法が今まで通りで十分であるということは考えにくいかと思います。例えば、もし小学生の頃、習った三角形の定義に改定があったなら(そんなことは現実的に考えられませんが…)、その面積を求める公式にも影響することでしょう。

記事の最後が疑問文で終わるのは、あまり好ましい形とは思えませんが、「改定された定義の真意を市場調査にどう反映させるか?」という点だけは、あえてそういう終わり方をさせて頂きます。その質問に事業体として、市場に向かって、どう回答するかが、正に、今の時代のマーケティング活動に他ならないと思います。

以上が「そもそもマーケティングとは何か」というテーマに対する弊所の所見です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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