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イノベーションを引き起こす組織に必要な自由とは

中村修二さんノーベル物理学賞受賞で考える、組織の在り方

代表 田原 中男

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2014年のノーベル物理学賞は、中村修二・カリフォルニア大学教授ら3人に贈られることになりました。中村教授は記者会見の中で、かつて勤めていた日亜化学工業での日々をふりかえり、「日本には自由がない」と研究環境の改善を訴えました。

中村教授の開発した青色発光ダイオード(LED)は1.4兆円もの市場を創出したとも言われていますが、中村教授が発明当時勤務していた日亜化学工業とは発明の帰属をめぐって訴訟にまで発展しました。

日本企業がこれからも成長し続けるためには、研究者が意欲的に研究活動に取り組む、新しいイノベーションを次々と創出していくことが必要です。このような訴訟のゴタゴタはできれば回避したいところです。

今後、企業は社員のイノベーションを促すために何をするべきなのか、専門家の方々に聞きました。

今回は、BMDリサーチの田原中男さんからの回答をご紹介します。
【ビズテリア経営企画 編集部】

低迷する日本に必要なイノベーション

これからの日本企業にとって成長の原動力は研究開発に限らず、組織運営や管理体制等すべての面でイノベーションが必要で、その結果得られた高い生産性を武器として激しい国際競争を勝ち抜くことだと思います。

戦後の成長期を経て日本企業の生産現場での生産性は非常に高いものがありますが、研究開発分野でのイノベーション、管理部門の生産性は残念ながら低いものに留まっています。

高度成長期を支えた日本的企業経営は終焉を迎え新たな組織運営が求められています。一つの大きな原因は生産労働人口の減少で年齢構成はピラミッドどころか逆三角形になりつつあります。従って高度成長とピラミッド型人口構成(国全体としても個別企業にとっても)を前提とした組織モデルは崩壊せざるを得ないものの、未だに革新的な変化が起きていないことが近年の低迷の原因となっています。1989年のバブル崩壊による後遺症ではなく、パラダイムシフトが起きているのに企業の体制変革と社員の意識変革が追いついていないということになります。

中村教授の例は状況を打破しようとする個人の強い意識と企業の対応が食い違った事によって起きたことだというように考えられます。先駆者が突き当たる困難さと世の中の許容力が追いつかないことによる課題というように考えられます。

解決するべき3つの課題

これから企業が解決しなければならない課題として次の三つがあります。

 1 終身雇用と言う神話からの脱却
 2 正社員と言う身分制とそれに伴う絶対的上下関係の打破
 3 属人的な給与体系から職務に対する給与体系への変革

これらが変革を遂げなければ、単発的にオープンな職場は実現しても、社会全体の意識が変わらなければ多くの〔中村二世〕は生まれず相変わらず特別な人に頼ることになります。

三つの課題を整理すると

1.日本の制度は終身雇用ではなく35年とか40年の有期雇用、何故なら定年があり強制的に退職となる。 それでも基本的に新卒者は正規社員呼ばれ、非正規あるいは有期雇用との間に差別がある。 例えばアメリカでは定年はなく本人が希望して本人に適した職場があればいつまででも働ける制度になっている。現実には早期退職して温暖な地域で年金暮らしすることが憧れなので多くの人が早く退職できることを望んでいる。

2.正社員とは何なのか? 非正規社員と比較した時に身分の差になっているのではないでしょうか。新卒で長く同一企業に勤務することで身分が保証される。 また退職金制度が転職を不利にしているので、新卒で正規社員にならないと圧倒的な差がついてしまう制度のため、社内で争わず、上司に異議を挟まず結果的に運動部的な先輩後輩の上下関係が形成され自由な発想が阻害されている。もっともこれらは中大企業に当てはまり小規模零細企業ではもともとこのような体制ができていないので、変革は小規模企業から起こるかもしれない。

3.ピラミッド型組織と長期勤続の結果、処遇体系は横並び重視の属人的な給与体系で技術や発想あるいは管理能力が長けていても処遇に大きな差はない。 職務遂行能力という幻想がこれを支えるものの、近年の低成長時代にはポジションが用意できないため職務を遂行できない層(組織上の管理者でない管理者待遇)が増加し組織全体のモチベーションを下げている。

欧米やアジアでは常識の人事制度

それではどのようにして解決するのかといえば、

『組織内のポジションに最適な処遇を決め、職務遂行能力のある人を任命し、上司との間で明確で合理的な目標を設定し、それに基づいて評価する。組織は会社全体の目標設定や規模の変化あるいは市場の変化によって常に変化するので必要なポジションや求められる資質も変化するので定期的な見直しが必要となり求められる人材も変化する可能性が高い。これによって人材の流動性が社内でも社外でも高まり健全な労働市場が形成され、適正な処遇水準が職務ごとに決定されることになる。 給与は本来的に組織内のそれぞれの位置や求められる業務に対して支払われるもので、それぞれのポジションに求められる職務遂行能力に見合った人が年齢や社内経験に関わらずその仕事を行い、その仕事に見合った給与を受けることが組織運営の合理的な目的に合致していることになる。』

日本以外の欧米、アジアの企業では常識的な考え方を日本企業も導入しなければ国際競争に勝てなくなるのは自明の理と言わざるを得ない。最初の質問に戻れば『日本には自由がない』というのはこのような状況を表しているのではないでしょうか。

イノベーションと自由

ソニーの故盛田会長が口癖のように言われていたことに『人が働くことへのモチベーションは、給与が高いか、名誉が得られるか(社内で出世する)、あるいは仕事そのものが面白い時だ』『ソニーは給与も高くなく、名誉もない(当時は無名の会社で、しかもマネジメントは少数)、しかしエンジニアは好きなように自分のアイデアで商品開発できる』ということがあり、まさに『自由があった』ことで成長してきたと感じます。

ですから日本企業も自由に仕事をする環境を作ることはできます。そして国籍を問わずに優秀な人材を確保するためにはこれからは『処遇と名誉』も大切になってきます。ただ、『自由』という言葉には色々な意味があって最近の風潮として『何をやっても良い』というニュアンスが濃厚になっていますが、実は限界があるからこそ自由だという認識も大切です。

それでは仕事上での自由とは何でしょうか? 二つの自由が考えられますが、一つは『自由な目標設定』もう一つは『目標に対して実践する方法の自由』です。

しかし、ここでも目標設定はあくまでも組織の目標の範囲内であり、会社と合意する必要があります。中村教授の言われる『自由がない』というのは目標が上から一方的で合意形成の過程が無いということと、目標達成手段についてもお仕着せの、あるいは上から押し付けられた方法論であって、個人の発想力を活かすような環境ができていないということと理解します。

これらは、一企業の問題というより社会風土の問題ですから教育制度から始めて社会全体の仕組みを変えてゆく大きな流れを起こす必要があると考えますが、まずは個々の企業で少しずつでも成功例を作り成功物語を広く流布することで大きな社会変革を起こすことができるのではないでしょうか。

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