組織力を高める研修効果測定を実施するために
朴 世晋
いま求められる研修成果
○人材育成部門も成果を求められる時代へ
技術革新やグローバル化が進み、企業間の競争が激しくなる中で、知的な価値や無形資産が重視されるようになってきた。新しい価値を創造できる人材を育成し、競争優位を勝ち取る組織の力をいかに引き出せるかで、組織の成否が左右される時代である。
また、限られたリソースの中で最大限の成果を生み出すことが求められる潮流の中では、人材育成部門が組織の業績向上の一翼を担うことも求められている。研修の実施について言えば、外部の講師に協力を仰ぎ、あるいは多忙な社員を長時間にわたり拘束することにより発生するコストに対し、組織の業績向上の観点から充分な研修成果を組織にリターンできているかが問われている。
これまでの研修では、「興味深かった」、「勉強になった」、「やる気になった」といった受講者の満足度を引き出しておけば、研修の目的は達成されることが多かった。しかし、今日の人材育成部門においては、組織全体の理念や戦略、課題が求めるものに応じ、受講者が現場に戻っても継続的に成果を上げることを促す機会として、研修プログラムを位置づける傾向が強まっている。
○研修効果測定で研修の成果を可視化する
それでは、こうした研修プログラムを確実に実施するために、人材育成部門は何をすべきだろうか。不可欠なのは、前回の研修の反省点を把握し成果の有無を測定すること、測定結果を目に見える形で表現すること、そして、可視化された結果を次回の研修に反映・改善させるサイクルをきちんと回していくことである。また、このように可視化された測定結果は、研修に投資したコストが研修の成果に見合うものだったのかどうかを、経営陣や受講者の上司といった協力者へ説明する際に有効な客観的根拠にもなる。
行動変容と成果達成の測定が成功のカギ
○研修目的を念頭に効果測定を実施する
研修の企画に際して、解決したい課題を個々の社員やセクションといった近視眼的なレベルからとらえてしまうと、たとえ研修成果が上がったとしても、それを自組織の競争優位に結び付けることは難しい。大切なのは、組織の全体最適を念頭に研修の目的を設定し、受講者の成長を、組織全体の成長につなげていくことである。
効果測定対象の切り口として有名な「カーク・パトリックの4段階評価」(表)を例に引くと、レベルが1から4に進むにつれて、組織全体の戦略や進むべき方向が、研修に求められる成果と重なり合ってくると考えられる。すなわち、レベル1の「研修満足度」が仮に高い場合でも、レベル4の「成果達成度」が思わしくない場合には、研修の目的が達成されたとは言えず、プログラムを大きく見直す必要があると考えることが出来る。
○学習目標を明確化し測定対象を設定する
効果測定をアンケートで行う場合には、どのような設問項目を設けるかが重要となる。当社では、「測定対象項目と学習目標項目は、表裏の関係にある」ことを念頭に、まず学習目標項目を明確化することから始める。研修を通して成長を促したい項目を、大きな分類から、徐々に下位に掘り下げていき、項目に漏れが出ないように設定する。次いで、課題となりうるであろう項目について仮説を立てて、それらを中心に設問として編成していく。こうした項目群は、人材育成部門にとって、継続的に利用可能で有用なストックとなるだけでなく、研修の計画・実施・測定・フィードバックのサイクルを通して、項目群と仮説の妥当性を高めていくことで、研修の質を効果的に向上させる助けとなる。
○研修効果測定データを効率的に分析する
効果測定アンケートの回答データを集計・分析する際に、「集計に時間がかかる」、「統計知識がなく有効な分析ができない」といった人材育成担当者の悩みを耳にする。集計・分析結果は、素早くレポート化し、関係者に研修成果をフィードバックするとともに、人材育成担当者自身も、次の研修プログラム改善に向けた策を早々に打たなければならない。しかし、その前段階である集計・分析作業、いわば効果測定の手段のフェーズでつまづいていると、研修そのものの目的が達成されなくなってしまう。当社でも同じ問題を抱えていたことがきっかけで、WEB上でアンケートの作成と実施、分析と診断、問題点の洗い出しまでを一貫して簡便に行うことのできるアプリケーションツール「SmartSTAT(スマートスタット)」を自社で開発し、導入している。またあわせて、ツールの仕様改善を進め、企業・団体様にもご活用を頂いている。
このように集計・分析の作業を効率化させ、研修の質向上のためのPDCAを確実に回していくことで、組織全体の課題に即した、受講者が現場で成果を上げていけるような研修を実現していくことが望まれる。(終わり)
SmartSTATは、オンラインで受講者にアンケートを回してもらい、受講者の満足度や意識・行動の変化、成果の達成状況、さらには研修そのものの改善すべき点を、瞬時に把握することのできるツールである。回答データは、ワンクリックで自動集計、グラフ化され、次回の研修に向けた改善点(図)を一目で確認することが出来る。