共創スクエア

株式会社イニシア・コンサルティング

企業ブランドにより企業活動全体を変革する

企業ブランドと競争優位性(第1回)

丹生 光

共創スクエア

昨今のブランドブームで、ブランドをマネジメントする企業は増えた。
いまやブランドマネジメントは企業の競争優位性を高める要素として大きな位置を占めるようになった。これまで、多くの日本企業はCS(お客様満足)経営を目指し、国際的には高い品質と満足度を確保することで競争優位性を高めてきた。

しかし、すでに品質やCS追求は当然となり、差別化できる要素ではなくなった。それどころか、商品自体は同じ品質、CSなのにある企業のものに限って高い値段で売れる、あるいは行列ができるほどよく売れるということが起きるようになった。それが、企業ブランドの効果であり、ブランドマネジメントが競争優位性に直結する時代となったのである。
ところで、ブランドをマネジメントするということは、目指すブランドアイデンティティーを定義し、それを表現する統一感のあるブランドロゴ、メッセージなどをつくり、外部に対してコミュニケーションしていくことを指している。それにより企業が変革されることを期待する向きは多い。

しかし、実はここに大きな落とし穴がある。いくらブランド「を」マネジメントしても企業は変わらないことに注意すべきである。見せ方、表面を変えれば企業イメージはある程度、よくなる面はある。だが、企業の本質が変わらなければ、多少良くなった企業イメージも所詮イメージ戦略の域にとどまり、組織の行動そのものはなんら変わらず、もちろん商品・サービスも変わることはなく、結果として競争優位性も高まらないのである。
それどころか、いずれ化けの皮は剥げ、かえってお客様の失望を招く。あるいは何かの不祥事をきっかけとして経営危機に瀕することすら珍しいことではない。

そこで、企業の本質を変革していくには、もう一歩進めてブランド「で」マネジメントする段階まで進める必要があるのだ。それはブランドアイデンティティーの実践を通じて事業戦略や業務プロセスを変える、あるいは社内の組織変革を行うことなどを意味している。そのためには、ブランド「で」全ての企業活動を目指す姿の実現に向けマネジメントすることが必要なのである。
お客様や社員、株主、取引先、社会全体といったいわゆるステークホルダーに対して企業としてどのような価値を提供するのかを分りやすく伝えて約束することをブランディング活動と呼ぶ。ブランディングには、社外向けのアウターブランディングと社内向けのインナーブランディングとがある。

これまでもお客様に対してはCS経営の考え方が日本企業にはいきわたっているため、比較的何をすればよいかが分りやすい。しかし、一番重要でありながら難しく、またどう取組んだら効果が出るのかが見えないのが、社員に対するインナーブランディングだというのがいまやブランドに熱心な企業のブランド責任者たちの共通の問題意識であるといえる。
そこで、インナーブランディングを効果的に進めるための大前提として、その目指すゴールを明確化する必要があるといえるだろう。社内の意識は現状どうなっていて、それをどうしたいのか、それによってどんな組織変革を成し遂げたいのかというインナーブランディングのゴールを描くのだ。そもそもどうありたいかの目指すゴールがなくては戦略を描きようがないからである。

多くの企業でインナーブランディングの主要なゴールは次のように設定されることが望ましいと考えられる。
<インナーブランディングのゴール(例)>
1.求心力の向上:モチベーションの向上など
2.組織変革:自律的行動の喚起など
3.業務マネジメント改革:ブランドアイデンティティーを具現化する業務
4.お客様接点の改革:ブランドアイデンティティーを具現化する接点


これらをワンセットでブランドの名の下に一気に展開できることは大きなメリットである。確かにインナーブランディングは企業の本質の変革に役立ちそうに見える。
しかし、実はインナーブランディングを効果的に実現することは難しい。これらが実現できることがゴールなのだが、どれをとってもカンタンではない。なぜなら、今まで他の手法でやってきて、できていなかった課題ばかりだからだ。
・・・「笛吹けど踊らず」
では、なぜ難しいのか?

アウター(お客様)向けのブランディングは、よく「お客様との約束」と言われる。では、インナーブランディングの本質は何か?
アウターブランディングが「お客様との約束」なら、インナーブランディングは「社員と企業との約束」なのである。そう、インナーブランディングとは、経営者と社員の間で交わす約束のことなのだ。お客様に社員が約束するのだから、経営者も社員に約束をしなければならない。
「会社をこんな方向にもって行きたい、だから協力して欲しい・・・」と。

ところが、多くの会社の現実は、お客様との約束をした社員に対して、さらに再び、経営者との約束をさせようとしているのではないか。だから、上手くいかないのではないか?
まずは、経営者が企業理念やビジョンに基づいて社員に何を約束するか、を決めるのがインナーブランディングのスタートであるはずだ。なぜなら本来、ブランドにおける約束とは、経営方針そのものだからだ。

たとえば、創業時のソニーの有名な設立趣意書にある第一項、「愉快な理想の工場・・・」という理念は、当時の経営者としての社員に対する約束そのものではないか。このユニークな一文があったからこそ、今日のソニーがあると思われるのだ。
キヤノンにしても創業間もない頃の経営方針には、社員に対する約束が、「自発、自治、自覚の三自の精神」や「実力主義」、「健康第一主義」、「新家族主義」という形でこめられていた。これらは、キヤノンの社風として今に受け継がれているという。

これらのような経営から社員への約束を受ける形で、今度は社員が経営者に対して約束する、そんな相互の約束が組織にとって理想なのではないかと思われる。それでこそ、各現場の日常業務にいたるまでブランドアイデンティティーが浸透し、それを具現化する組織的な下地が出来上がるのである。(つづく)
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