共創スクエア

採用と育成研究社

シームレスな採用と人材で理想の社員を戦力に~採用内定者の能力向上には充実した学生生活を~

小宮健実、鈴木洋平

2001/01/01
共創スクエア

多くの企業は、社員の採用にあたって、適切な人物を選考できているのかどうか、といった問題を抱えている。原因はいくつかある。採用にあたっての主観的な判断をしてしまっていることもその一つだ。また、採用と育成がつながっていないため、それぞれの能力や特性に応じた研修ができていないといった課題もある。採用と育成研究社代表の小宮氏と鈴木氏は、「採用はサイエンス」だと語り、また「採用と育成は本来シームレスなもの」だと主張する。さらに学生に対しても、コンピテンシー(行動特性)の積み重ねを重視し、充実した学生生活をおくってもらうことが大切だというメッセージを伝えている。そのことが、就職先の企業で能力として発揮されるからだ。

【ビズテリア経営企画 編集部】

客観性に基づいた人材採用はサイエンスの領域

小宮健実 (Takemi Komiya)
株式会社採用と育成研究社 副代表
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。1999年から2004年にかけて、人事にて採用チームリーダーを務める。5年間で計約2000人の学生採用を行なうとともに、社外においても、採用理論・採用手法についての多数の講演を行なう。さらに、大学をはじめとした教育機関での学生向け就職活動支援イベントでのスピーカーとして全国行脚。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を入学時から支援するプログラム(自己開発力育成プログラム)を企画する一方、前職の経験を活かし学外で学生向け就職講座や、人事担当者向け採用戦略講座の講師を務めるなど、多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職。同年4月「採用と育成研究社」を設立、同代表。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

ほとんどの企業では、人事についての知見はあっても、採用や育成についての知見はあまりないのではないでしょうか。例えば、面接官の主観に頼ってしまったり、グループワークを行なっても行動特性を評価できなかったりといったことです。しかし、本来であれば適切な採用活動には客観的な評価が必要ですし、その背後には経営学や心理学、教育工学などさまざまな学問があります。採用もまた、採用学というサイエンスだということです。


図1は、採用活動と人材育成の関係を示したものです。この図では、「平行要素」と「拡張要素」が示してあります。平行要素とは、動機や意欲などのように、上下に変化していく要素です。一方、拡張要素とは、知識やコンピテンシー(どんなことができるか、といった行動特性)のように、積み重ねていくことができるものです。


また、図2は私たちの成果創出モデルですが、基本処理力や性格といった先天的要素の上に、平衡要素である興味や動機があり、これを維持していくことで、成 果創出に直結するコンピテンシーなどにつながっていく構造を示してあります。こうしたモデルにしたがって、人材を採用し、仕事に必要な知識やスキル、コン ピテンシーを持った理想とする人材へと育成していくことが、企業には必要です。したがって、採用は数年後の人材を獲得するという視点で行なうべきものなの です。

シームレスな採用と育成

鈴木 洋 (HIroshi Suzuki)
株式会社採用と育成研究社 副代表 

新入社員は育成を通じて理想とする人材になっていきますが、個人の成長は入社から始まるのではなく、ずっと続いてきたものですし、内定を出してから入社までの間も積み重ねていくものです。また、コンピテンシーは、どんな経験をしたかということに関係します。採用の面接では「大学で何をしてきたか」という質問がなされますが、同様に入社まで何をするかということも大切です。専門を深く学ぶことや、この時期だからこそやりたいことを実現させる、そういった大学時代にしかできない経験を重ねることも有意義なことです。こうしたアプローチは、就職活動が学生の本分である教育・研究活動の妨げになっていたという社会問題に対しても、正しい解決をもたらすものだと考えています。
  一方、入社後の育成ですが、さまざまな特性を持ち、経験を重ねてきた新入社員が、同じような研修を受けるなど、採用データが活かされていないことが多いと思います。
  本来であれば、採用時に基本処理力や性格、価値観、コンピテンシーなどのデータを把握しているはず。そのデータを活かすことで、必要な能力、不足する能力を伸ばしていくことができます。したがって、採用から育成までは、シームレスに行なっていく必要があります。

学生側から見た採用の問題

採用を希望する学生の側から見ても、企業の採用活動には問題があります。
  例えば、企業の採用担当者は、スキル・知識とコンピテンシーを混同しているということがあります。その結果、学生は大学で学んだことが社会では役に立たないと思い込んでしまいます。
  例えば、法学部の学生がSE(システムエンジニア)を希望したとします。このとき、法学部はSEという職業にとって意味のないものなのでしょうか。実際には法律とシステムの類似性や、サークル活動で身に付けた人にはたらきかける力など、仕事に使える能力として積み上げてきたコンピテンシーがあるはずです。
  法学とSEの間には、メタファーとなるものなど、細かく探していけば利用できる知識などがいろいろと見つかると思います。そして、しばしばそうしたものが、イノベーションを起こすきっかけともなっていきます。
  私どもでは、学生生活で学んだことは仕事に役立つということを、自信を持って学生に伝えたいと思っていますし、そのためにも、就職が内定したあとでも充実した学生生活を送ってもらいたいと思います。

キャリア形成に向けたフレームワーク

 企業が理想とする人材を獲得し、また社員も目標とする姿になっていくには、基本的なフレームワークが必要です。
  図3はそれを示したものです。Aの「事実」は、現在を示しています。これまでの積み重ねの上にあるものです。そこからBの「主張」、すなわち未来を定めていくわけです。Cの「論拠」は、どのようにして未来にたどりつくことができるかということです。

企業は、応募者がこれまで「どのような経験をしてきたか」だけでも、「何をしたいか」だけでも採用することはできませんし、経験の上で未来に到達する論拠も必要です。逆に、この3点をしっかり完成させれば、目標に向けて力強く育つことができます。したがって、採用のプロセスはこの3点の関係性を確認するように設計しておく必要があります。

富士通とディスコのケーススタディ

 私どもがお手伝いさせていただいているケースのうち、採用から育成までプロセスがつながっているプログラムに、富士通様のATTチャレンジがあります。

 内定者に対しては、社会人基礎力をセルフチェックしてもらい、自分がどのような能力を伸ばせばいいのか、「見える化」します。このとき、必ずしも欠点をなくすのではなく、将来必要な力を伸ばすことがより大切ですし、学生生活を通じて、成長していくことになります。
  入社後から入社2年目の終わりにかけて、研修やOJTを通じて、仕事をしていく上で不足している能力を伸ばしていきます。
  採用だけではなく、人材育成から取組んだケースもあります。採用広報事業などを行なうディスコ様では、今年から育成施策展開をスタートしました。社員の能力を向上させ、組織内のコミュニケーションを活性化させていくことが求められていたからです。
  最初に取組んだことが、ディスコらしさを「コアバリュー」としてまとめることでした。経営者のメッセージや現場でのアンケートなどを参考に、ディスコがもっと強くなるためにはどうすればいいか、明確にしていったのです。
  ディスコのコアバリューは「私たちらしさ」として、社会から信頼される企業であるという「信念」、および「思考」「行動」「協働」「成長」の4つそれぞれ について示したものです。この「らしさ」を向上させるため、それぞれのレベルを4段階に判定するシートを作成しましたが、その内容は、レベル1は「断片的 にできない行動がある」、レベル2は「行動できているが一部受動的である」、レベル3は「能動的に行動できている」、レベル4は「創造的な行動ができる」 といったものを、さまざまな業務活動にあてはめた内容となっています。ディスコではレベル3以上をスタンダードとし、全社員がディスコ社員らしい行動がで きるように取組んでいるのです。
  採用に向けて、このシートをアレンジし、ディスコ社員らしさを目指すことができる採用活動を展開することも進められています。

採用から育成までのプロセスを見直そう

私たちが提供するサービスは、採用における直面する課題の解決ではありません。採用から育成にいたるプロセス全体を見直し、最適な状態にしていくこ とです。もちろん、企業ごとに取組むべき課題は異なるでしょうし、プログラム全体を一度につくることも難しいので、順を追って進めていくことになります。
  また、こうした採用から育成にわたる改革は、現場だけではできません。経営者が広い視野で俯瞰的な立場に立ち、採用と育成のつながりを見ていくこと、そし てトップダウンで実行していくことが必要です。採用から育成までのプロセスは企業の将来にとっても極めて重要なものですから、構築にあたっては経営陣、で きればトップが参加してミーティングを行なっていくことが必要だと考えています。(終わり)




株式会社 採用と育成研究社
設立 2008年4月
代表 小宮 健実
所在地 〒160‐0023
東京都新宿区西新宿6-10-1 日土地西新宿ビル
電話
FAX
Email info@rdi.jp
事業内容 1.企業の採用活動~採用した人材の能力開発のための手法構築、情報発信
2.個人もしくはグループのキャリア形成支援、またそれらに関するツール、アプリケーションの企画、開発支援
3.企業の採用活動・人材育成に関する企画、戦略立案、運営支援
4.セミナー、ワークショップなどの企画、運営支援
5.3D仮想空間における教育研修の企画、運営支援
■この記事についてのお問い合わせ
採用と育成研究社
共創スクエア
スペシャル・インタビュー
  • 女性活躍の正しい実践とは
  • 人を幸せにする経営
  • 日本の農業を世界に
  • 経営のマインドを取り戻し、将来のビジョンを描く
  • マイナンバー制度 導入に向けた不安に応える
  • 多様性ある社員をやる気にさせる人事制度を
  • 成長戦略にのっとったM&Aとは
  • 事業承継のポイントは、経営理念の確立と浸透
  • バランス・スコアカードで元気な日本的経営を取り戻そう
  • ソーシャルメディアはエンゲージメントを高める所
  • 「困ったこと」のビックデータ解析が、マーケティングの鍵に
  • 机上の空論にならない経営計画
  • 事業承継の最重要課
  • どんな会社でも能動的な営業・販売をすることなく、「顧客の欲求」を動かす事ができる。
  • 変容する中国で生き残る 戦略マップによる経営の可視化を
  • HIT法による業務の可視化
  • 「バズる」ブログ - その運営の裏にある組織風土とは
  • クラウド時代の業務改革
  • 中堅企業が取組む現実的な業務改革とは
  • 日本のベンチャーが世界で活躍する日
  • 組織変革のためのZERO経営とは
  • 組織は劇的に生まれ変わる
  • プロジェクトリーダーの育成
  • コミュニケーション不全を解消し、組織力を高める
  • サプライチェーン・マネジメントと業務改革
「経営に役立つ記事」セレクション
経営で使える 無料小冊子
共創スクエア
特集「経営の可視化」
Information