グローセンパートナー(以下、GP)は、ある上場企業の組織変革プロジェクトに挑んだ。その上場企業は創業40年を超える老舗商社。同社は設立以来、順風満帆に成長を続け、社員数は300名、年商は200億円に上る。しかし近年、その成長に陰りが見え始め、創業41年目にして初の赤字に転落していた。GPの役割は、その会社の業績低迷の原因を突き止め、かつての輝きを再び取り戻させること。今回は、GP代表の島森氏が手がけた組織変革プロジェクトを追った。
1ヶ月目 「シンプルな戦略ストーリーを描き、社員のやる気に火を付ける」
島森氏は赤字の原因を探るため、まず経営幹部から現場社員まで約30名へのヒアリングを実施した。しかし、古手の経営幹部はヒアリングへの協力に消極的だった。経営幹部たちの口は重く、答えも明瞭さに欠けていた。
一方、若手の現場社員はヒアリングへの協力に積極的だった。それまで現場社員の提案は経営幹部に握りつぶされ、社長にまで届くことはなかった。
ちなみに、島森氏の経験上、会社に1人か2人は飛びぬけて優秀な社員がいる。「よくぞ、この会社に残ってくれていた」と感動するくらい優秀な社員だ。この会社にも、やはりいた。島森氏はその社員の話に身を乗り出して聞き入った。
このヒアリングの結果、島森氏は業績低迷を引き起こした直接的な原因を特定した。それは「粗利管理の不徹底さ」。原材料の原価高騰により、主力商品の製品原価が販売価格を上回っていたのだ。そこで、島森氏は「業績回復のため、早急に商品の値上げに着手する」というシンプルな戦略ストーリーを描いた。
・現場社員は変革の"正しい解"を持っている。GPは現場社員の声をもとに、シンプルな戦略ストーリーを描き、現場社員のやる気にも火を付ける。
2ヶ月目 「正しい人をプロジェクトリーダーに選ぶ」
プロジェクト2ヶ月目、島森氏は現場で起きている問題、社員の考えなどを包み隠さず社長に報告した。そして「早急に原価管理のルールを確立し、主力商品の値上げが必要です」と提案した。また、島森氏はヒアリングを通じて、社員一人ひとりの詳細な人材レポートも作成していた。そして、そのヒアリングで浮かび上がってきた優秀な社員を、プロジェクトリーダーに抜擢するとも同時に伝えた。その提案に対して、社長に何の異論もなかった。もともと社長自身、島森氏が指摘した問題にはうすうす気づいていたからだ。
・正しい会社組織ならば、社長と現場社員の考える戦略は一致する。
3~6ヶ月目 「変革派と保守派の対立を越え、プロジェクトを前進させる」
3ヶ月目、プロジェクトが4つのテーマで発足し、現場社員が中心となってプロジェクト進めていった。すると、だんだんプロジェクトメンバーは2つに分裂し、対立し始めた。変革を推進する「変革派」と、変革についていけない「保守派」。前者は若手の現場社員、後者は古参の経営幹部が主だ。保守派からは変革をつぶすような動きも見え始めた。
そこで、島森氏は変革の火を絶やさぬよう、会議に発言のセーフティネットを張った。具体的には、発言主の肩書きではなく、発言内容が会議で重視されるようにしたのだ。その結果、変革を推進する人は評価され、変革に反対する者たちは自然とプロジェクトから去っていった。
ここまでくれば変革の8割は終わったようなものだ。変革を志すメンバーが集まり、為すべきことが明確ならば、プロジェクトはもはや成功したも同然だからだ。プロジェクトメンバーは自らコミュニケーションを取り合い、次々に高い成果を出していった。
社員のやる気に火が付く段階は3つある。
1.島森氏のヒアリングを通じて、社員一人ひとりのやる気に火が付く。
2.プロジェクト内のコミュニケーション量が増加するにつれて、社員一人のやる気の火がほかの社員にも伝播する。
3.プロジェクト間で進捗を競い合うことで、全プロジェクトに火が付く。
結果 「計2億円以上の収益改善に成功し、V字回復を実現」
現場社員たちによる変革は、最初に描いた戦略ストーリー通り、大きな成功を収めた。主力商品の値上げが順調に進み、わずか6ヶ月で1.5億円もの収益改善に成功したのだ。
そしてプロジェクトの成功を祝して、プロジェクトに参加した40名の社員たちは打ち上げを行った。お互いに苦労をねぎらい、喜びを分かち合う中で、社員間の結束はさらに強まった。またプロジェクトに大きく貢献した若手社員には、社長賞が贈られた。
また、変革の成功により、会社全体の雰囲気が明るくなり、現場社員は自信を持ってイキイキと働くようになった。そして現在もまだ、彼らのプロジェクトは続いている。
・プロジェクト終了後も、継続的かつ自律的にプロジェクトを運営できるようにする。
・GPの狙いは、今回の変革を通じて、「業績改善」、「人材選抜」、「人材育成」、「社内コミュニケーションの活性化」の全てを実現させること。社長1人の力で実現しようとしたら3年はかかることを、わずか6ヶ月で実現する。