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書評「斜陽」 | 大内智久(Tomohisa Ohuchi) 悦楽の館 | ビズテリア

書評「斜陽」

2013/02/20

斜陽と言えば、あの太宰治の代表作ですが、初めて読んでから年明けに十年ぶりくらいに読んだら、思いのほか短いのに驚きました。

逆にそれだけ密度の濃い小説なんだと言えますが、チェーホフの桜の園が下地にあるとは言え、太宰は私小説の上手さが先行してますが、「右大臣実朝」や「新訳ハムレット」などこそが教科書なんかにも代表で挙げられてもいいし、冒頭から上手い。

「お母様があっと言って・・」は有名ですが、女二人で始まり、物語は直治や上原さんを除くと女性中心で回っていて、太宰の女性の文体の上手さが存分に発揮されてることに注目です。

お母様は最期の本物の貴族であって、という所は実朝の延長線にあって、直治は自らの存在と育ちの齟齬によって遂に身を滅ぼし、かず子は革命の為に上原(札付きの不良)の子を身ごもり生きる。

戦後の社会の変容に対し、著者が戦争を経ても人間の本質の変わらなかった事への絶望が見事に200ページないしで著され、戦中にも多大な創作をし、日本文学を堅持した著者の凄まじい創作は皮肉にも滅びの前の輝きを自らの体をもってあらわしたのかと思うと感慨深いものがあります。
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